概要
九州大学では、教育学部および人間環境学府実践臨床心理学専攻、人間共生システム専攻臨床心理学指導・研究コースにおいて心理臨床家の養成を行なっております。教育学部は、「教育学系」と「教育心理学系」に分かれており、三年次より系選択をします。さらに「教育心理学系」は、「人間行動コース」と「心理臨床コース」に分かれており、心理臨床コースにおいては、臨床心理学やパーソナリティ心理学だけでなく心理査定法、心理学統計法や研究法、実験についても学び、幅広い視野と基礎知識を備え、さらに理論的、実践的な専門知識を習得することを目指しています。
また、大学院では「人間環境学府実践臨床心理学専攻」と「人間共生システム専攻臨床心理学指導・研究コース」で学びを深めていきます。実践臨床心理学専攻は二〇〇五年にわが国初の臨床心理分野の専門職学位課程として開設され、二年間で多様な心理臨床の現場における即戦力となる高度な臨床実践力を備え、チーム医療・チーム学校など他職種と連携できる人材を養成します。修了後には博士後期課程に進学することもできます。
人間共生システム専攻臨床心理学指導・研究コースは臨床心理分野の指導者・研究者を目指すコースで、修士課程で臨床実践力と臨床基礎研究力を、博士後期課程で高度な研究力と臨床実践指導力の双方を養成します。どちらの専攻、コースにおいても、所定の単位を取得することで臨床心理士と公認心理師の受験資格が得られます。
大学院では学内実習と学外実習を積み重ね、多様な臨床現場で活躍できる実践力を養っていきます。学外実習は保健医療、福祉、教育領域での実習に臨み、各領域の経験豊富な実務家教員によるきめ細やかな指導を受けます。学内実習は附属の「総合臨床心理センター」における心理相談、発達相談の実務経験を積んでいきます。
総合臨床心理センター
学内実習を行なう総合臨床心理センターは、一九五四年の「教育相談室」開設以来、一九八一年には「心理教育相談室」として文部省より有料の相談機関として認定され、さらに一九八六年には「障害児臨床センター」が新設され、二〇〇五年の「専門職大学院 実践臨床心理学専攻」の開設に伴い、「総合臨床心理センター」として「心理教育相談部門」、「子ども発達相談部門」、「生涯発達支援部門」の三部門を有する国内初の総合的な施設となりました。また、二〇一八年十月からは九州大学のキャンパス移転に伴い、伊都キャンパス内に大型プレイルーム(一五五m²)二室を含む二十二の面接室、カンファレンスルーム等を配置した三階建ての建物を新築し、充実した環境の下で相談援助活動を行なっています。
当センターでは、三部門で乳幼児から高齢者まで一生涯にわたる多様な相談に対応できる心理臨床家養成のための学内実習の充実化に取り組んでいます。大学院生には複数の部門にわたりケースを担当することを推奨しており、発達障害、知的障害、運動障害、不登校、引きこもり、いじめ、非行、嗜癖、うつ病、不安症など心の問題と発達の問題に関わるケースに対して、各部門の専門性を活かした臨床実習を行なっています。
新規ケースを受ける際は、まず臨床経験豊富な教員のインテークに陪席し、心理面接の進め方やアセスメントについて肌で感じながら学ぶことができます。インテークを行なった全てのケースについて複数の教員による検討を行ない、センターとして支援の方針を決めます。担当しているケースについてはカンファレンスにおいて経過を発表し、コメントや指導を受け、ケースへの理解をさらに深めます。その際、少人数のカンファレンスでフェイス・トゥ・フェイスの指導を行なうように努めています。また、学内の教員による指導だけでなく、センターに登録されている学外のスーパーバイザーからも個別にスーパービジョンを受けることにより、多面的な理解を得て心理臨床の学びを深めています。
以上のように、私たちは従来の心理臨床教育の基本を重視しながらも、 新しいキャンパスにおいてさらに明日の臨床を拓く「こころの専門家」 の養成を目指しています。これこそは、臨床心理士第一号であった成瀬悟策先生をはじめとする先達の先生方が築き上げられた九州大学の伝統であると自負しています。