日本と共通するところも多い韓国の臨床心理学界の現状と最新動向について韓国臨床心理学会の会長を歴任された大邱(テグ)大学の朴重圭先生にうかがいました。

―韓国の臨床心理学に関連した組織を紹介してください。

 韓国にはアメリカ心理学会を倣って、15 の分科学会で構成された韓国心理学会があり、会員数は30,750 名です。15 の分科学会でもっとも大きな比重を占めているのは、臨床心理学会と相談心理学会といった精神健康関連の領域のものです。15 分科学会はそれぞれ資格制度を設けていて、2018 年現在、韓国心理学会全体で資格を授与された心理専門家および心理士は12,677名です。
 韓国心理学会の分科学会で発刊される専門学術誌は総16種で、韓国臨床心理学会は『Korean
Journal of Clinical Psychology』( 1967年戧刊、年4 回発刊)と『韓国心理学会誌―臨床心理研
究と実際』(2015 年戧刊、年4回発刊)という2種の学術誌を発行しています。

―韓国における臨床心理学の発展過程と現状について教えてください。

 韓国に臨床心理学が初めて紹介されたのは戦後で、国立精神病院を中心に臨床心理師が働くようになりました。韓国でも1960 年代後半からロジャーズの相談理論や多様な行動療法が導入されましたが、主に大学の相談機関で用いられ、医療機関では心理治療が積極的に活用されていませんでした。
 1970 年代には韓国心理学会が専門家の基準を作ることに取り組み、1972 年に「臨床心理専門家」および「相談心理専門家」資格規定を制定、1973 年から学会資格制度が施行されました。私は1995 年頃100 番目の「臨床心理専門家」資格取得者でした。
 1987 年には相談心理を専門とする会員たちが臨床心理分科学会から独立しました。相談心理学は特に大学の学生相談室を中心に、進路指導や心理的適応問題を扱う心理相談を行うものです。今日韓国で心理相談が一般に活性化されるようになったのは相談心理分野で活動した方々の実績が大きいといえます。
 臨床心理学は医療機関において心理アセスメントを中心に活躍し、1990 年代以降の心理治療分野において認知行動療法を導入するにあたって主導的役割を果たしました。
 1997 年と2003 年に韓国では2 種類の臨床心理関連国家資格制度が施行されました。2000年代から国の財政的支援が増え、多様な公共領域で臨床心理師の活用も著しく増え始め、有資格者の養成も促進されるようになりました。2016 年には韓国の精神保健法が「精神健康増進及び精神疾患者福祉サービス支援に関する法律」に全面改訂され、国家が医療および社会福祉分野で公共政策を広げています。韓国心理学会はこのような政策に合わせて今まで分科学会別に行っていた資格認定を包括し、より専門的な心理支援サービスを提供する人材を育成するために、仮称「心理師法」の資格法制化を推進しています。

―現在、韓国心理学会の重要な関心事の一つは新たな資格法制化のようですね。

 学会資格として「臨床心理専門家」(修士課程以上修了後2 ~3年の研修要)は長い歴史とオーソリティをもっています。最近これに相応する資格法制化を進めています。私はそのために設立された韓国心理学会の「心理サービス法(制化)委員会」委員長を担当しています。法律で「臨床心理専門家」レベルの心理職が規定されることで国家の政策的支援のもと、今より質の高い国民への心理業務を行えるのではと期待しています。

 既存の国家資格ですが、1995 年に「精神保健法」が制定され、1997 年から「国家専門資格」で保健福祉部が主管となる「精神保健臨床心理師」(2016 年から「精神健康臨床心理師」に改名)資格を多くの臨床心理分野専門家が取得しました。「精神健康臨床心理師」は1 級(修士課程修了後3 年の実習)と2 級(学部卒後 1 年の実習)に分けられています。2003 年から「臨床心理師2 級」(学部卒/在学中含めて1年の実習要)という緩和された基準の「国家技術資格」(韓国産業人力公団主管)が施行され、多数の取得者が養成される状況です。これは量的に数が多いものの(約7,300 人)、現場では補助職として扱われます。上位資格である「臨床心理師1 級」(修士課程修了/在学中含めて2 年の実習要)は2009 年から施行されていますが、数が少なく、その取得資格のある人は、「精神健康臨床心理師」を取得する傾向があります。

―先生ご自身の心理臨床実践やご研究はどのようなものでしょうか。

 フィールドは病院臨床が中心で、心理アセスメントや精神病理学の研究、認知行動療法を行いました。2005 年から大邱大学に在職しながら、臨床心理専門家を養成する一方、大学付属施設で臨床を行っています。本学には二つの付属施設があり、一つは学部生の実習施設である外来有料相談施設、もう一つは市から精神障がい者のリハビリテーションと自立支援業務を委託されている「大邱大学精神健康相談センター」です。

 今もっとも大きい、喫緊の課題は「心理サービス法(制化)委員会」委員長として大学院修
士課程以上の学歴と平均3年程度の実習を基準に資格法制化を進めることです。
 これから日韓の国際的交流も活発になることを期待しながら、日本心理臨床学会のさらなる
発展を応援します。

2019年韓国臨床心理学会春大会で教え子たちと。朴先生は右端


朴重圭(パク・ジュンギュ)
大邱大学再活科学学部再活心理学科教授。
大邱大学精神健康相談センター長。第53 代韓国臨床心理学会長(2016・2017)、韓国認知行動治療学会副会長(2014~2016) を歴任するなど韓国心理臨床学界の重鎮。さらに、韓国版ウェクスラ―式知能検査を始め、種々の心理アセスメントツール制作に参加した韓国の心理アセスメント研究および実践のリーダー。最新著書『最新 臨床心理学』(社会評論アカデミー,2019)

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