「ネットスキル」は教えられているのか
小中学校の情報モラルの授業を見学すると、子どもたちが「ネットの使いすぎに気をつけます」と宣言するような場面を多く目にします。「確かに、気をつけようと思う気持ちは重要だな」という一方で、「どうやって使いすぎに気をつけるのかな」「本当に気をつけられるのかな」とも思います。
これまでの情報モラル教育では、どうしても「モラルの醸成」に目が向けられ、具体的な行動を考える場面は多くありませんでした。しかし、情報モラルが情報活用能力の一部であることを踏まえると、情報モラル教育は決してモラルの醸成だけではなく、情報を上手に活用する力と情報のリスクに対応する力を身につけさせることが必要となります。その中では、当然、様々なリスクに対応するためのネットスキルを具体的に身につけることも必要となります。本稿では、こうしたネットスキルを学ぶための教材を紹介していきます。
「タイムマネジメント」のスキルを学ぶ教材
まずは長時間利用に対応するスキルを学ぶ教材を紹介しましょう。こうした長時間利用については、「誰かから怒られるからやめる」(他律)ではなく、時間を自律的に管理するためのタイムマネジメントの力を高めることが必要になります。
私の研究室では、こうしたタイムマネジメントの力を育てるために、具体的なタイムマネジメントのスキルを教材化しています。静岡大学教育学部の大学生に調査を行い、上手にゲームを終わりにしたり、勉強を始めたりするためのスキルを紹介しています。
例えば、「区切り」という項目では、「小さい楽しいものをはさむ」というスキルが挙げられ、「ゲーム→勉強ではなく、ゲーム→音楽を1曲だけ聞く→勉強のように小さい楽しいものをはさむ」と紹介されています。
また、「物理的距離」では、「あえて使いにくくする」というスキルが挙げられ、「電池があと5%でもあえて充電せずに使い、電池が切れたら勉強を始める」と紹介されています。
確かに、ゲームをきっぱりやめて勉強に向かうのは誰しも難しいことだと思いますが、そこにあえて「好きな音楽を1曲だけ聞く」ことで、それが終わったら勉強に向かいやすくしているのです。
こうしたタイムマネジメントのスキルは、中学生や高校生ぐらいになれば、子どもたち同士で共有することも可能でしょう。「ネットの使いすぎに気をつけます」という宣言をするだけでなく、「なぜ自分が使いすぎてしまうのか」に着目しながら、具体的にどうすれば気をつけられるのかを考えることも必要ではないでしょうか。
「コミュニケーション」のスキルを学ぶ教材
次に、コミュニケーションのスキルを学ぶ教材を紹介しましょう。特に、こうしたコミュニケーションのスキルは、特別な支援を要する子どもたちにとっても必要になります。こうした特別支援向けのコミュニケーションスキルについては、従来はソーシャルスキルトレーニング(SST)でよく扱われてきました。例えば、上手に感謝の気持ちを伝えたり、上手に謝ったりするスキルを学ぶ教材は多くありましたが、その多くが「対面」を基本としていました。しかし、ネットやテキスト上で感謝の気持ちを伝えたり、謝ったりするスキルは、必ずしも対面でのスキルと一致するわけではありません。そもそも、ネットでそうしたことをしてよいのかを含めて、ネット上で上手に感謝の気持ちを伝えたり、上手に謝ったりするスキルは、対面とは別に学ぶ必要があるはずです。
そこで私の研究室では、特別支援教育の専門家とともに、特別支援教育向けの教材を作成しています。例えば、スタンプの使い方一つをとっても、その使い方は明示的に教えられてきたわけではなく、暗黙知的に、経験から学んできた場合が多いと思います。しかし、本教材では「この場合に、どのスタンプを使えばよいか」を具体的に学びながら、スタンプの使い方を学びます。
この他にも、テキストチャットでの上手な会話の切り上げ方や立場の違う人とのコミュニケーションの仕方なども学べる教材を公開しています。
「スキル」だけで終わらないように
ここまでネットスキルを学ぶことの必要性や具体的な教材を紹介してきましたが、「スキル」だけで終わらないことも重要です。そのスキルを身につけることはもちろん重要ですが、結局は、「なぜ」の部分も大切になってきます。例えば、「なぜ、時間を自律的に管理する必要があるのか」、「なぜ、相手のことを考えてコミュニケーションをとる必要があるのか」などが身につかないと、どんな場面でも同じスキルを使い続けることになってしまいます。
ぜひ、「なぜ」の部分を大切にしながらも、ネットの「スキル」を身につけさせていくような指導を、情報モラル教育で実践してほしいと思います。