編集後記

 この34号の編集作業の最終段階に差し掛かった、2025年1月28日に埼玉県八潮市で道路の陥没が生じ、穴に落ちたトラック運転手の方は、2月14日現在、まだ救助に至っていません。1日も早く救出されることをお祈りしております。安全確保の道を探りつつ困難な救助作業にあたっている皆様には本当に頭が下がります。避難されている皆様も見通しがつきにくく大変な状況にあられるかと思います。皆様に心よりお見舞い申し上げます。
 ここ10年で道路の陥没事故が増えつあり、今回の深刻な事故によって、国内の地下のインフラストラクチャーの老朽化の問題、地盤の空洞化の問題が、一挙に明るみに出た感があります。旧いものを撤去して新しいものに換えればよいという単純な話でもないようです。事故とその深刻さは、われわれの生きる地盤を見直すことの重要さ、築いてきたもの、拠り所にしてきたものを常に見直す必要があること、目をかけ手をかけて、生きたものにしていくこと必要があることを強烈に教えてくれていると感じています。
 今号は、既存の社会とその価値観に、一人一人がそれぞれの立場で疑問をもちながら、互いに生きて関わり、互いの問いにも出会いながら、新たな関係や世界を共に紡いでいこうとする人々の姿を描いた『虎に翼』に感銘をうけ、脚本家の吉田氏に依頼し、嘉嶋先生との対談が実現しました。お二人に御礼を申し上げます。特集1では多様な領域における心理職と専門職を生きる先生方に、その共通点と相違点について語って頂きました。心に携わることの本質について考える機会になればと思います。特集2はキャンパス・ハラスメントの問題に携わる先生方にそれぞれの立場から語って頂きました。現代の青年における自分探しや自分なりの対人関係の持ち方を応援できればと考えています。睡眠も、思春期・青年期にも、中年期にも、深く関わるテーマであり、心身のインフラ整備にもかかわる営みで、生きることと深く関わっています。執筆者の皆様、編集の皆様、たいへんお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。最後に、今号から表紙と中身のデザインを刷新しました。ここからまた新たな歴史を紡いでいければと思います。

(広報委員 松下姫歌)

事務局だより

 2024年の日本は、1月1日16時10分、新春を祝う能登半島にM7・6の巨大地震が発生するという大変な状況でスタートを切りました。復興支援が道路の寸断などのために十分に進まない9月に、豪雨が奥能登を襲い悲しいニュースを再び耳にすることになりました。それまでの生活のすべてを失った方々の悲嘆を須らく癒すべきことなどできるはずもなく、しかしながら、いてもたっておられずに支援に出かけられた方々もおられることでしょう。ただニュースから情報を得るしかできないものにとっては「神も仏もあるものか」という恨み節が耳の奥底から響き、ため息をつかないではおれない状況だったように思います。過去に微力ながらも阪神大震災の支援に直接かかわったことのある私には、われわれ心理職が一国民としてもどのように動くべきか。また、これまでの被災経験から得られているはずの智慧をどのように生かすべきなのかを、東南海地震が起きることがかなりの確信をもって語られている現代において、国の支援が準備される以前の緊急支援下においても、エンパワメントとアドボカシーの両面から改めて日本全体で構造的に構築し準備をしておくべき段階にきているのだろうと感じています。
 そのように日本国が不安定な日常の中で、日本心理臨床学会は藤原理事長が3選され、学会の基盤は盤石化する中にも新しい体制に移ることになりました。私が学会の副理事長を拝命いたしましたが、本務の仕事との両方での業務の多さに四苦八苦していることなど事務局の皆さんの仕事量と、これまで学会を運営されてこられた諸先生方のパワーと能力からすればまだまだ不十分で、諸先生方には改めて頭が下がる思いで過ごしております。
 第43回大会も先の大会に続き、日本心理臨床学会理事会主催で、青木紀久代大会委員会委員長、吉川眞理大会実行委員長の下、対面大会予約受付者:3268名、Web大会参加者(特設サイトアクセス者):5090名で対面参加者数はコロナ前の大会規模に相当する盛況さになりました。コロナ禍から再出発する日本心理臨床学会が、会員の皆様のご協力によって成果を得てより発展することを祈念しております。

(副理事長 石田陽彦)

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