傷ついたことのない人っているのでしょうか。
 傷つけたことのない人っているのでしょうか。
 答えは否です。

 心理職であれば相談に訪れる方の様々な傷つきに関わることがあります。立ち直りを目指したいという想いに寄り添うことも多々あります。
 ときには傷つきを傷つきと認識することで自分が壊れてしまいそうだという叫びを目の当たりにすることもありますし、立ち直れなさを抱えながら静かに生きるという姿勢に圧倒されることもあります。相手を傷つけてしまった後悔にさいなまれる訴えに、何もできずにただ無力感を覚えることもあれば、誰かを傷つけないとやっていられないという混乱や憤り、無念さをともに抱えることもあります。
 『もしも虫と話せたら』という本の中ではエダナナフジという昆虫が「傷つかないのが強さじゃない。再生するのが真の強さじゃ」と言いますが、筆者は「再生しない強さ」もあると考えます。傷つきは立ち直らないといけないものではないからです。
 この特集では、不慮の事故や戦争、恋愛や人との距離感に生じる傷つきと立ち直りをテーマに、現場の心理職の視点から考えることについてお伝えします。

●引用文献
じゅえき太郎・ペズル作、須田研司監修『もしも虫と話せたら―昆虫が教えてくれた生きづらい世の中を生き抜く自然の鉄則』プレジデント社、2020年

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