Serial Articles WORLD MAP カンボジアでのこころの支援――身近なところから着実な支援を
著者 医療創生大学 原田真之介
カンボジアとは
皆さんは、カンボジアという国をご存じでしょうか。カンボジア王国は東南アジアのインドシナ半島に位置し、首都はプノンペンです。隣国にはタイ、ラオス、ベトナムがあり、アンコール・ワットをはじめとする壮大な遺跡で知られています。
しかし、20世紀後半には内戦が続き、特にポル・ポト政権の時代には多くの国民が犠牲となりました。教育制度の廃止など、社会の基盤そのものが破壊されるという悲劇も経験しています。その後、1990年代に内戦が終結し民主化が進むと、経済発展とともに社会が再建され、現在では観光地としても多くの人々が訪れる国となりました。
障害者の社会参加を進める動き
カンボジアは2012年に「障害者の権利に関する条約(CRPD)」を批准しました。これにより、国内でも障害のある人々の教育や雇用の機会を広げ、社会参加を促す動きが強まっています。とはいえ、そこにはまだ多くの課題があります。
まず、長い内戦の影響で、障害者支援の専門人材が不足していることが挙げられます。次に、障害のある人が学校やリハビリ施設に通うこと自体が難しいという現実があります。経済的に厳しい家庭が多く、交通手段や介助の支援体制が十分に整っていないためです。
さらに、仏教的背景と結びついた民間信仰や価値観の一部が、人々の障害理解に影響を及ぼしている場合もあります。たとえば、障害を持って生まれたことを前世の行いと関連づけて理解する見方が一部に見られ、こうした理解が結果として障害のある人への偏見や差別につながることがあると指摘されています。
私たちにできること
これらの課題を解決するには、カンボジア社会がより豊かになり、支援制度が整うことが理想です。しかし、それをただ待つだけでは前に進めません。私たち一人ひとりが、小さなことでも「今できる支援」を見つけ、着実に行動していくことが大切です。
「臨床動作法」という支援のかたち
日本で生まれた心理療法の一つに「臨床動作法」があります。もともとは脳性まひの子どもたちへの支援として始まりましたが、のちに発達障害や心の不調を抱える人々にも効果があることが分かり、学校や病院、福祉施設など幅広い場で実践されています。
臨床動作法は、一見すると体操やストレッチのように見える活動ですが、目的は単なる運動ではありません(写真1)。支援を受ける人が、自分の身体の感覚に気づき、力の入れ具合を調整しながら「自分で動きを作る力」を育てることを目指します。このことで、動作の不自由さがやわらぎ、自分の力でできることが少しずつ増えていくのです。

カンボジアでの臨床動作法の歩み
この臨床動作法は、20年以上前からカンボジアでも実践されています。近年は、カンボジアの国立障害者入所施設である「National Center for Infants and Children(NCIC)」という所で、日本のNPO法人「こころとからだの発達サポートシステム」(代表・中野弘治氏)を中心に継続的な支援活動が行われてきました。
コロナ禍を経て、現地で根づく支援
2019年の新型コロナウイルスの流行により、日本からの渡航が難しくなりました。活動の停滞が心配されましたが、NCICの職員たちは自ら臨床動作法を実践し続けました(写真2)。現在では100名以上の子どもたちを対象に、週1回のセッションを継続しています。これは、長年の地道な活動が現地に根づいた成果といえるでしょう。


また、NCICには臨床動作法の専門資格を取得した職員が2名誕生しました。現地で支援の担い手が育ったことは、カンボジアの障害者支援の自立に向けた大きな一歩です。
さらに、2025年には大型電子黒板「スマートパネル」を寄贈し、日本とカンボジアをオンラインで結んで共同研修を行う体制を整えました。ICTを活用することで、離れていても密な連携を保ち、質の高い支援を続けられるようになっています(写真3)。
一歩ずつ、着実な支援を
20年以上にわたる活動は、一つの施設の子どもや職員を対象とした取り組みでしたが、そこで培った「丁寧に向き合う姿勢」は、どんな支援にも通じる大切な姿勢です。支援とは、お金や物を渡すだけではなく、時間をかけて関係を築き、相手の力を育てていくこと。その積み重ねこそが、本当の意味での「こころの支援」なのです。
終わりに
長年にわたりカンボジア支援を続けてこられた中野弘治氏は、残念ながら2025年7月に逝去されました。私たちは中野氏の思いを受け継ぎ、今後もカンボジアの人々とともに歩みながら、こころの支援をさらに広げていきたいと考えています。