恥にまみれた人生でした。ある雨の日には電車の中で大きな荷物を抱えたまま滑って転んでひっくり返って。ある晴れの日には向こうから手を振って近づいてきた人がいたので「誰だっけ?」と思いながら手を振り返したら、私の後ろの人が「久しぶりー」なんて言ってたり。こんにちは。樋口と申します。
もうこの最初の段落だけでお腹いっぱいという人もいると思います。わかります。恥ずかしいのはとても辛いし、文字通り「穴があったら入りたい」気持ちになります。ただこのコラムでは、そんな私にもあなたにもとても良い知らせをお届けしたいと思います。題して「恥じらいの魅力」です。上の段落を読んだあなた。私のことを少しだけ微笑ましいと思ったりしたのではないですか?そうです。実は恥ずかしがっている人は周りから見たらそんなに悪く思われてはいないのです。
恥ずかしがっている人はとてもわかりやすいです。顔を赤らめ、視線を逸らし、そして若干の微笑みを見せます。また顔を隠すような素振りや手で自分の腕を触るような仕草をすることもあります。それではこれを見た周りの人はどう思うのでしょうか。この疑問に関する多くの研究で、恥ずかしがっている人は周りからより好ましく、望ましい人物であると評価されることが示されています。例えばある社会心理学的な実験では、褒められたことに対して恥ずかしそうにした人は、無表情だった人や誇らしげにした人に比べて、より信頼され、また協力を獲得できることが示されています(Feinberge al.,2012)。
ではそもそもなぜこのようなことが起こるのでしょうか。羞恥とは、自らを振り返り、そこに何らかの問題があると認識した際に生じる感情です。自分の失敗やあるいは褒められたことに対して恥ずかしそうにする人物は、その状況が良くないときちんと認識していることに他なりません。自分だけ褒められちゃって申し訳ないな、なんていう風にその状況を望ましくないと認識できる人物ならば、きっとその人は信頼できる人なんだ、好ましい人物なんだ、と理解されるわけです。
さて恥ずかしさによって魅力が高まる効果は人類共通なのでしょうか。この点は実はなかなか難しいようです。恥ずかしがっている人物に対して魅力を感じる程度の文化比較を行った研究では、恥ずかしそうにしている人物が魅力的であると感じられるかどうかは、文化によって異なることが示されています。では果たして日本では?日本における研究は実はそれほど多くはありません。ただいくつかの研究で、日本でも恥ずかしそうな表情を示した場合には無表情の人物に比べてポジティブに評価されることが確認されています(例えば福田他、2014)。
さあこれで恥ずかしいのは怖くないですよね。どんどん積極的に転んでいきましょう!手を振り返していきましょう!と言いたいのですが、重要なことを最後に指摘しておきます。このコラムで紹介して来た通り、恥ずかしいという感情は側から見たら確かにそれほど悪い感情ではなさそうです。ただ、恥ずかしい本人は本当に辛いのです。消え入りたいと感じることもあるような少なくとも一時的には非常に強い感情です。この感情の正負の側面をしっかり認識して、この魅力的な感情と付き合っていきたいですね。
●参考文献
Feinberg, et al. (2012) Flustered and faithful: Embarrassment as a signal of prosociality. Journal of Personality and Social Psychology, 102(1).
福田哲也、樋口匡貴、蔵水瞳(2014)
「羞恥表出者に対する観察者の評価および行動」感情心理学研究21(2)