大学院の歴史
京都文教大学大学院臨床心理学研究科は2000年に修士課程が設置され、2002年には博士後期課程も開設、以来、心理専門職育成の伝統をもつ大学院として臨床心理士、公認心理師を多数輩出し、日本の心理臨床の最前線をリードしてきました。1996年大学開学と同時に設置された臨床心理学科を母体とし、当初から学部・大学院の臨床心理一貫教育を先取りして実践してきた大学ともいえます。
そもそも、1990年代、当時国際日本文化研究センターにおられた河合隼雄先生が臨床心理学を専門的に学び、臨床心理士を育てる専門大学を構想されたことが本学の開設の始まりでした。本学の学長を務められた樋口和彦先生が当時を振り返って、最初200名定員の大学院を作ろうと河合先生が息巻いていたということを面白おかしくお話しされていたことを懐かしく思い出します。
200名はさすがに無理があるということになり、それでも開学当時は他に類を見ない30名定員の修士課程を立ち上げ、この間、輩出した臨床心理士、公認心理師は合わせて600名を超えるまでになりました。心理職として活動する数多くの修了生のつながりが本学のかけがえのない財産となっています。
教育の特色
大学院教育の特徴は、学術顧問として関わってくださった河合隼雄先生の影響力のもと、ユング派の樋口和彦先生や精神分析の鑪幹八郎先生が学長を歴任されるなど、力動的な心理療法の訓練を受けた教員が大きな影響力をもって教育の軸を作ってきたところにあるだろうと思います。歴代の先生方皆さんお亡くなりになられ寂しいかぎりですが、灯された光は輝きつづけ、伝統を受け継ぎ、新たな展開を模索する、生命力にあふれた大学院が現在も保たれています。
今日の大学院教育では、力動的な心理療法を教育の主軸に据え、これを基盤としてパーソンセンタード・アプローチや認知行動療法の手法に学びを広げていく、というシステムをはっきりと打ち出しているところは少なくなってきていると感じています。本学ではユング心理学や精神分析に大きな力点を置き、豊かで深みのある人間観を養っていくことこそ心理療法家としての資質を育てる大事な一歩であるという姿勢を保ってきました。
大学院での学びは、このような豊かな人間観を養うことを念頭に、一方で、心理臨床の初学者として体験的に臨床感覚を身につけていくことのできる仕組みを整えています。その体験の要となるのは、付属の心理臨床センターでの臨床心理体験だといえるでしょう。院生は大学院入学後、初年次の後半から心理臨床センターに申し込まれる臨床ケースを担当することになります。
ケース担当にあたっては、正課の授業としてケース・カンファレンス、インテーク・カンファレンスを設け、具体的な対応を検討し、院生が安心してケースにあたっていけるようにサポートするとともに、毎回のケースの変化などを細やかに個別スーパーヴィジョンを受けてもらうことになっています。
相談ケースは多岐にわたりますが、初学者に担当が難しいケースは専任カウンセラーが担当し、また、子供さんの問題で来られる場合、子供を院生が担当し、親を専任カウンセラーが担当する母子並行面接を組むなど、安心して臨床心理体験に臨むことができるようにしています。
近年では、発達障害で精神科クリニックの診療を受ける方が多くなっていますので、連携して心理検査をお受けするケースがかなり増えています。本学は、関係性を深く築くことによる心理療法の体験的学習に重点を置いてきていますが、その分、やや手薄になりがちである短期間での心理検査を通した臨床心理体験も、ここにきて非常に充実した状態となっています。

また、この他の臨床心理体験としていわゆる学外実習と呼んでいる各種専門機関での実習があります。初年次は小学校や幼稚園を中心とした教育機関、二年次は医療、福祉機関に実習に赴きます。本学の特色は、週に一度、それぞれの機関の運営時間に合わせてまる一日、実習機関で過ごすことです。学期期間中はもちろんですが、夏休みなどの大学の長期休暇中も、原則として実習機関が運営されているのであれば、週一のペースで訪問することになっています。ここでの体験はケース・カンファレンスで取り上げて学びを深めることとなりますし、実習の5回に1回のペースで教員スタッフが実習先を訪問して巡回指導を丁寧に進めています。
そのほか、院生が主体となって展開する研究会や、海外の臨床家との交流など、十分に楽しみ味わいつつ学べる環境があります。
スーパーヴィジョン文化
院生は自身の臨床心理体験をインテーク・カンファレンスやケース・カンファレンスを通じて、あるいはゼミ単位での集まりにおける臨床指導を通じて、教員スタッフから指導助言を受けます。これが臨床訓練の要ですが、一方で、院生は一年生の夏休み前にそれぞれ学外のスーパーヴァイザーと一人ずつマッチングし、授業の合間にスーパーヴァイザーのオフィスに行って指導を受けることになります。夏ごろから修了まで、大体一年半ほどの期間スーパーヴァイズを受けますので、60回分の費用があらかじめ学費の中に組み込まれ、大学から支払われることになります。
この個別スーパーヴィジョンのシステムは、単に院生の育ちをサポートするだけでなく、本学の臨床心理教育の理念が地域に開かれ、スーパーヴァイザーとの緩やかなネットワークを形成し、また、本学教員スタッフが他大学院生のスーパーヴィジョンを担当することで、関西での心理臨床実践の共通基盤が大学院間をつなぎつつ、一つの臨床文化を育んでいると私たちは考えています。人が人と支え合い、影響しあうことで形作られる安全で、安心感を持てるコミュニティの創造に個々の臨床心理活動がつながっている、そういう実践ともなっているわけです。
ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム
2023年度に文部科学省「人文・社会科学系ネットワーク型大学院構築事業」の採択を受け、龍谷大学政策学研究科、琉球大学地域共創研究科と本学の3大学院の連携大学院プログラムを2025年4月から大学院生に提供し運営し始めています。本学の産業メンタルヘルス研究所との協力で実現したこのプログラムは、社会に開かれた臨床心理実践教育に新鮮で可能性に満ちた空気を吹き込むだろうと期待しているところです。