仕事から離れることは、あきらめではない
「本当は仕事を休みたい。でも、ここで休むと今後のキャリアに傷がつくかもしれない。周囲に迷惑をかけたり、自分だけ楽をしていると思われたりするのが怖い」
企業内の心理士として、働く人々の相談に携わる中で、こうした声を耳にすることは少なくありません。「仕事から離れたい」という切実な思いを抱えながらも、仕事から離れることで生じる迷いや恥、罪悪感といったネガティブな感情に圧倒され、休職した方がよいのか判断できなくなるのです。心身の不調を自覚していても、不調がないかのように振る舞うしかなく、無理をして就業を継続するケースも多く見られます。結果、強い疲労感や頭痛、集中力や判断力の低下が生じ、普段しないようなミスが増えることで、自己嫌悪や自己否定が強まり、心身の状態がより悪化する可能性があります。
そこで、仕事から離れることをネガティブな体験として捉えるのではなく、自分自身の状態を整え、これからも自分らしく、長期的に働き続けていくための自己メンテナンスの期間として捉え直してみてほしいと思います。休むことは、「働くことをあきらめる行為」ではなく、これからの働き方を大切にするための、主体的な選択のひとつなのです。
自分の状態や思いを言葉にすることの大切さ
「仕事に戻る」こともまた、大きな葛藤と勇気を伴う体験です。
復職を意識し始めると、不安や緊張が高まり、判断に迷いが生じやすくなります。「本当に仕事に戻れる状態になれたのだろうか。また不調を繰り返してしまうのではないか」といった不安や、「職場から冷ややかな目で見られないだろうか。職場の期待にこたえられないのではないか」と周囲の視線や評価を過度に意識しがちです。
ただ一方で、職場も「どのような言葉をかけたらよいのか、以前と同じように関わってよいのか」といった戸惑いや不安を抱えていることが往々にしてあります。互いに不安を抱えているがゆえに、意図せぬ認識のズレが生じ、「職場から否定された、受け入れてもらえなかった」とネガティブに受け取ってしまうこともあるのです。
そこで、互いの不安を解消するには自分の状態を相談することも役立ちます。休復職への不安を言葉にしてみることで、職場もあなたの支え方を考えるきっかけになるかもしれません。不安や迷いを抱いている時こそ、一人で抱え込まずに、誰かとつながり、ともに言葉にして整理していくことが重要なのです。
つながる勇気
仕事から離れる・仕事に戻ることは、個人にとっても職場にとっても、「これまで当たり前だった日常が当たり前ではなくなる体験」になります。そのため、うまく言葉にできない思考や感情に揺さぶられることもあります。
この揺らぎは、決して弱さの表れではありません。一歩を踏み出したことで生じる揺らぎは、これまで抑え込まれ、語られることのなかった、あなたの大切なこころの声に気づくきっかけになります。そして、その声を少しずつ言葉にしていくことで、自分らしい生き方や働き方を見つけていくことができるのです。
しかし、体験したことのない揺さぶりと一人で向き合い、それらを受け止め、言葉にしていくことには、勇気とエネルギーが必要です。
だからこそ、離れる勇気・戻る勇気と同時に必要なのは「つながる勇気」です。一人で抱え込まず、私たち心理士と一緒にこころの声に耳を傾け、言葉にしていく時間を作ってみませんか。