「医療現場の心理師/士って、どんな一日を過ごしているんですか?」
 これは私が学生時代に気になっていたことの一つでもあり、学生さんからよく尋ねられる質問の一つです。
 今回、《心理師/士のリアルな生活》というテーマで執筆の機会をいただいたので、普段どのような一日を送っているのか、そしてその中でどんなことを考えながら日々の臨床に取り組んでいるのかを、一般の方や心理職を志す学生をはじめ、みなさまにお伝えしたいと思います。
 私は2017年の3月に大学院を修了し、今年で臨床9年目を迎えました。非常勤で病院と学校を掛け持ちしていた時期を経て、現在は東京都小平市にある国立精神・神経医療研究センター病院(以下NCNP病院)で週5日働いています。

 NCNP病院は、精神・神経疾患の研究と高度医療を担う国立高度専門医療研究センターであり、ここで私は医師や看護師、精神保健福祉士など多職種と協力しながら、こころの不調を抱えた方々への心理支援を行っています。業務内容も心理面接(カウンセリング)、心理検査(知能・性格・症状の評価に用いられる検査)、集団療法など多岐にわたる支援の中から、今回は“とある一日”を切り取って、その輪郭を少しだけクリアにしてみたいと思います。
 勤務開始は8時30分と病院の朝はやや早めです。時間に余裕を持って出勤するスタッフもいれば、ギリギリに駆け込むスタッフもいます。それぞれが自分のペースで仕事モードに切り替え、朝礼では一日のスケジュールや業務連絡を共有します。朝礼に臨むスタッフの様子や表情から、その日の業務量や負担感がなんとなく伝わってきます
 外来は9時から始まり、スタッフはそれぞれのスケジュールに沿って心理検査、面接、所見作成、受付などの業務に取り組んでいきます。

とある一日:月曜日

 この日の私の業務は外来患者さんの個別心理面接が3件(10時、11時、16時)。そして13時からは集団療法の司会進行(ファシリテーション)があります。
 9~10時は少し時間の余裕があるため、10時からの初回面接の準備にあてます。電子カルテを確認し、症状の経過、人との距離の取り方の傾向、その人が持つ強み(ストレングス)など、多角的に情報を整理していきます。事前情報の有無で聞き手の理解の深さは大きく変わるため、この時間は大切にしています。ただ、実際にお会いすると、事前に立てた仮説や問いは一旦脇に置き、その場の語りに身を委ねることが少なくありません。事前準備は、見立てを固めるためというよりも、気持ちや面接に向かう姿勢を整えるための時間なのかもしれません。
 面接が始まると、あっという間に時間が過ぎる方もいれば、丁寧に言葉を探しながら話すため時間がゆっくり流れる方もいます。悩みの深さやモチベーションは人それぞれです。面接後は、SOAPという形式に沿って10分以内にカルテへ要点をまとめるのが私のマイルールです。十分に振り返りきれないもどかしさを抱えながらも、面接の記憶が鮮明なうちに記録することを大切にしています。
 金曜日には「ケースカンファレンス」と呼ばれる支援方針の話し合いがありますが、カンファレンスがない日は、できるだけ仕事から離れるようにしています。休憩室は、仕事という役割を脱ぎ、その人らしさが最も現れる場所です。看護師さんなど他職種とお昼を食べることも多く、この時間が多職種連携の土台になっていると感じます。

午後の業務:SMARPP(依存症集団療法)

 13時からは、SMARPP(スマープ)という依存症支援プログラムの司会進行です。覚せい剤、処方薬、市販薬、アルコールなど、依存の対象は多岐にわたります。臨床1年目から関わらせてもらっていますが、今でも変わらず緊張します。自分のことについて語り慣れている人もいれば、多くを語らず「これ以上踏み込まないで」と無言で訴えてくる人、香りをまとい、自分を守る鎧のようにしている人、トークのオチがいつもありユーモラスな人――本当にさまざまです。共通しているのは、楽しみや苦しみも含め、私には想像できない人生を歩んできた方々だということです。
 私の中にも、社会の空気をまとった無意識の先入観が一瞬よぎることがあります。しかし、その感覚に気づきながら、目の前のその人を“属性”としてではなく、一人の人生として理解しようと姿勢を整え、どこまで踏み込んでよいのか葛藤を抱きながら質問を重ねます。テキストに沿った進行という“構造”が、目に見えない境界線を整え、参加者の安心感を形成してくれます。
 実習生に「印象に残ったプログラムは?」と尋ねると、SMARPPが挙がることが多く、それだけ臨場感があり、刺激的な時間なのだと思います。終わる頃には、毎回3歳ほど歳をとったような気がしますが、それ以上に、自分の中の偏見の輪郭が少しずつ変わっていく実感があります。

最後の面接:復職支援(リワーク)

 スタッフルームでコーヒーを一口飲み落ち着きを取り戻したら、16時からの面接に向かいます。その方は休職を経験し、復職を目指す患者さんです。
 休職は、業務過多、対人関係の摩耗、パワハラ、度重なる失敗体験など、さまざまな理由で起こります。望んでいた結果ではありませんが、肩書や所属から一度外れる“外れた時間”だからこそ見えてくる自分があります。
 社会の荒波に揉まれながらも、再び働こうとする姿からは、いつも勇気や強さをもらいます。この日もその力を分けてもらい、一日が終わります。残るのは疲労というより静けさに近い感覚です。誰かの回復を支えるというより、“共にその時間を生きた”ような余韻が胸に残ります。

 これはあくまでも私の一日で、心理職の働き方は多様です。それでもこうした一日の積み重ねが、医療現場での支援の一端を担っています。
 悩みを聴く仕事である心理職はよく「聴いている側も落ち込まないですか?」と尋ねられます。もちろん共感することでこころが摩耗したり、寝る前のベッドで患者さんの話を思い出すこともありますが、今回お伝えしてきたようにエネルギーをもらったり、自分の持つ偏見に気づき視野が少しずつ広がっていく体験もできます。心理師/士という職業の具体的なイメージを、少しでも持っていただけたなら嬉しく思います。

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