「ムカつく」から始まるお話

 夕食の準備をしていると、中学生の男の子がやってきて、「〇〇がムカつくんだけど!」と拳を震わせながら訴えてきます。話を聞き、こちらが思ったことを伝えると、「その言い方、ムカつく!」と、こちらをにらみつけてきます。こちらも腹を決め、夕食準備を他の職員にお願いし、いったん深呼吸をして気持ちを整え、場所を変えて話を聞くことにします。
 「ムカつく」としか言わない子も、落ち着くと、「悲しかったのかな? 悲しいのは経験していないから、どうしていいのかわからない」とか「"大きな声はびっくりする"と伝えたかった」とか、いろいろな思いを語ります。いろいろな気持ちが絡まり、話を聞いてもらおうにも、「ムカつく」としか言えなくなっていることが少なくありません。
 "困ったことがあったら相談してね"と言われていても、自分から相談に行くのはなかなか難しいものです。相談できず自分なりの対処をした結果、さらに悪い状態になり、もうダメだという気持ちに陥ってしまうことはよくあることです。そういう子たちと話し合う中で見つけた、「ムカつく」について知っておいた方がよさそうなことを、いくつか紹介します。

「ムカつく」について、知っておくといいかもしれない、いくつかのこと

 ①「ムカつく」≒「"助けて!"」
「ムカつく」ときというのは、「緊急事態」です。自分で何とかしようとしても、極端に受け取ってしまったり、きつい言い方をしてしまったりして、こじれてしまうことが多いです。そのため、"自分で何とかしようとせずに、言いに来て"と伝えています。その場を離れるだけでも、気持ちが少し落ち着くことがあります。
 ②小さな「ムカつく」を知る 
「ムカついているときに話に行くなんてムリ!」と言う子がいます。それは怒りが高まりすぎている状態です。そうなる前には、話を無視する、声が大きくなる、といった小さな怒りの状態があります。そういった変化について知っておくと、「ムカつく」に対処しやすくなります。
 ③うまくいかないことについて話す
失敗の悔しさから、さらに「ムカつく」子がいます。そういう子とは、前もって、うまくいかない場合があること、その場合にどうするかについて話し合っておきます。そうすることで、多少悔しさや「ムカつく」思いが和らぐようです。

大人もいろいろな気持ちが絡まり言葉にならなくなってしまうことがある

 「ムカつく」子どもに付き合うのは、簡単なことではありません。子どもには、いつでも対応できるわけではないこと、また傷つける言葉や行動は受け入れられないことを伝えておきます。大人も傷つくことを説明され、驚く子もいます。
 大人もいろいろな気持ちが絡まり、言葉を見つけられなくなってしまうことがあります。「ムカつく」という言葉しか浮かんでこないこともあるかもしれません。大人もいろいろな思いを話せる誰かを必要とします。思いを話せる人とのつながりを意識的に紡ぐことが、ますます求められています。その工夫を共有・蓄積していく必要があるのではないでしょうか。

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