「無敵の人」―「社会的に失うものが何もないために、犯罪を起こすことに何の躊躇もない人」を意味するインターネットスラングです。

 ですからこの言葉は、何かしらの犯罪が起こった際に(トレンドに上がったりして)取り上げられることが多いものです。

 とはいえ、「社会的に失うものが何もない」と感じている人、実際に対人関係が乏しい人が増加しているのは事実であり、そうした非常事態でなくともこの問題は常に潜在しているといえます。

 ここには、社会的孤立をつくる社会的構造の問題があります。そうした構造的問題は、要因が複雑に絡み合っていて、解決が容易ではありません。すくなくとも、個々人の努力でどうにかなるものではありません。そういったサイズが大きい問題を、私たち心理職が直接的に解決することは難しいでしょう。

 しかし、現実に、心理職はそうした問題の「結果」であるところの、「無敵の人」あるいはそれに近接した状態にある方と接しています。そうした心理職だからこそ、言えることがある―そう考え、この特集は組まれました。

 心理職の強みは「細やかさ」にあります。どんな「無敵の人」にも、歴史があり、心がある。つながりを求めている部分があるし、後悔や傷つきも感じている。中身を読んでいただければ、そうした実情を垣間見ることができます。必ずや、「無敵の人」を彼岸のこととせず考えるための、きっかけとなるはずです。

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