本号には特集が二つあります。各特集について説明する、この文章を、編集委員会では"扉"と呼んでいます。読者にとって、特集に誘われる入口となる"扉"といったイメージでしょうか。また、扉は、記事を執筆する方々にとって、編集委員が執筆の方向性を整えたい場合の道標にもなると思います。各著者へ執筆依頼する際に、扉を先に書いて渡しておけば、編集の方向性が著者たちに明示されるからです。しかし、今回は、執筆内容の自由度を上げることを優先して、あえてそうしませんでした。つまり、執筆者のほとんどが特集2のテーマである「書くこと:臨床しながら書くこと・発信すること」という短い言葉に誘発されて、かなり自由に執筆したものと思われます。
そしていま、私は特集の記事(五本)をすべて読み終わってから、この"扉"を書いています。自由度が高かったはずの各記事において、複数の共通項が見出せるような感覚のなかにいます。たとえば、社会に向けて発信していくことの意味や意義(声を届けること/アクセシビリティの向上/セルフヘルプ機能の賦活/アドボカシー/ニーズの掘り起こしなど)、現場の心理臨床家が研究することの意味や意義(共同研究/学問の多様性など)、言葉を鍛えること・育てることそのものの意味や意義などが、この後、五名の著者によって語られます。そのなかで「事例小説」の執筆を勧めている記事もあります。
考えてみれば、かなり多くの人が、思春期のどこかで一瞬でも「作家になりたい」と思ったことがあるのではないでしょうか。書くことは、その行為自体がもつ本質的な重要性ゆえに、心理臨床フィールドに留まらず、いまこの"扉"を読んでくださっている貴方にとっても、無縁ではないと信じています。書くこと……その永遠の魅力にようこそ!