犯罪と心理臨床。このふたつの並びから、みなさんはどんなことを連想されるでしょうか。
 多彩な心理テストを通じて犯人の心の闇を抉り出す「精神鑑定」。猟奇的殺人犯の捜査に携わる「プロファイリング」。そういったイメージが強いでしょうか。何か特殊なやり方で、通では到達できない地点にたどり着く――。ひとつはそんなイメージかもしれません。
 別の方向性としては、犯罪の被害者への心理的援助も想像されるかもしれません。これももちろん、心理臨床家の重要な仕事のひとつです。
 それらは、すでに起こってしまったことに対してのアクションです。近年、犯罪と心理臨床の関わりはそれだけにとどまりません。加害者に対してのカウンセリングや、社会に対して働きかけることによる「予防」にも、心理臨床家は積極的に携わっています。
 罪を犯した者は、何かしらの加害者であることは事実です。しかしその「加害」は、通俗的なワイドショーのコメンテーターが述べるように、個人の病理へと還元されるようなものではないことが、本特集では描かれています。
 犯罪者は私たちとは違う、「あちら側」の人間なのだ――。そう考えると、安心かもしれません。でも、そうした「あちら」と「こちら」を分けるような姿勢こそが、いわゆる「凶悪犯罪」を生み出す素地になっているのかもしれません。本特集はそうしたことを考える一助となることと思います。お楽しみください。

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