大学生や高校生等若い方達は、日本心理臨床学会の名称にある「心理臨床」とはどの様なものか疑問をお持ちではないでしょうか。そもそも「臨床」にはどの様な意味があるのでしょう。
「臨床」とは、紀元四、五世紀にキリスト教世界に広まった「死の直前に受ける臨床の洗礼」において用いられた言葉です。それは人間の死の不安を和らげる為の儀式でした。私達は、人間の生は死を前提として成り立っていることを忘れて生きておりますが、心理臨床の場に相談に来られる方、とりわけ大きな苦しみを抱えておられる方々は、生の真只中にあって、「死」の不安と懸命に向き合っておられるように思います。
このような「臨床」は、歴史的には、精神医学において発展し、精神症状の状態像や経過について、身体的な観点から重要な知見が明らかにされてきました。心理臨床においては、精神医学の知見を踏まえて、人間が抱える困難な状況に関する心理検査の諸技法の開発がなされることによって、様々な心の状態について、身体に現れる場合・心理的な苦しみとなる場合・他者への暴力等の行動化が生じる場合等に対する援助の在り方が探究されてきました。こうして心理臨床は、精神医学とは異なる学問として位置づけられるようになりました。
両者の大きな違いは、精神医学では、医学的診断に基づき、主に薬物療法が用いられるのに対して、心理臨床においては、来談者との関係性こそが重視され、来談者の語る困難や課題等の共有が目指される点でしょう。この様な関係性を深める為の中軸にあるのが言葉ですが、言葉で表現できない心の深層もあります。そうした次元に関わる為に、夢分析・箱庭療法・行動療法・描画療法・動作法等々の技法も用いられます。また、子どもへの遊戯療法とともに親子それぞれに対して援助される親子並行面接も重要になります。
人間が抱える課題は、時代の変化とともに非常に多様なものになって来ております。それらの苦しみを抱えている人々とともにあるのが本学会であると申せましょう。