編集後記

 本年5月8日から新型コロナウィルス感染症が5類感染症に位置づけられました。基本的な感染症対策は維持しつつも、ようやく日常生活に対面性が取り戻されつつあります。コロナ禍は、社会生活に、人の心に、大きな影響を与えました。一見ネガティヴに見える影響も見受けられる一方、心にまつわる様々な気づきもまた、数多くもたらされたように思います。
 例えば、日常生活に当たり前に備わっていた対面性が失われることで、心身に苦しさを感じる人もいれば、対人関係や場の空気に呑まれやすかった人が楽になる面もある等、心のあり方や心の力の多様性に気づかされることがありました。また、従来の生活では、無自覚のうちに互いの存在を「肌」で感じていたのだということ、そのことによってその場に互いに存在する「実在感」や「共生感」のようなものを感じていたのだという強烈な気づきもありました。そして、オンライン会議システムを使ってのやりとりが増える中、意外にスムーズに交流できることに驚く一方、言葉にならないノンバーバルな要素は伝わりにくく、心理臨床では、そのようなノンバーバルな心の動きを手掛かりにしていることにも、あらためて気づかされました。
 心理臨床は、自分が自分であることをめぐってのゆらぎに寄り添い、心の個別性と多様性の理解を深め、それを通じた普遍性に開かれていくものと言え、そのためには言語を超えたノンバーバルな心の動きと表現をいかに心で感じ受けとめていくかが重要です。特集1の「心理臨床家の目から見た多様性」、特集2の「ノンバーバルな語り」、この2つのテーマは心理臨床に不可欠な普遍的なものです。その重要さをコロナ禍があらためて教えてくれたと感じています。
 対談はマンガ家のうおやま氏にお願いしました。氏の作品が上記2つのテーマを頭でっかちでなくあまりにも自然体で体現されていることに感激したからです。連載を抱え超多忙な中お引受け下さり、氏の心の目線を飾らずにお話し下さったことに心より感謝申し上げます。ご協力下さった執筆者の皆様、広報委員長の葛西先生、広報委員・広報誌編集委員の皆様、日本心理臨床学会事務局の田所様、創元社の橋本様、誠に有難うございました。本誌が多くの方々にお読み頂けることを願っています。

(広報委員 松下姫歌)

事務局だより

 ここ数年の本学会の大会は、新型コロナウイルス感染症の多大な影響により、開催日程や内容・方法等について、毎回、様々に検討して実施されて参りました。以下に、この間の大会の状況についてご報告させて頂きます。
 事例研究を重視する本学会ですが、第39回大会さらに第40回大会では、新型コロナウイルス感染症が広がっていた状況において、大会の在り方について慎重に検討した結果、対面大会開催は困難であるとの判断に至り、誠に残念なことではありましたが、事例研究発表は実施されませんでした。まず、第39回大会は、横浜国立大学が担当校として『心理臨床学における「原点」の思索』とのテーマで開催され、続く第40回大会は、お茶の水女子大学が担当校として『心理臨床における対話と創造―歴史の継承と未来の構想』のテーマで開催されましたが、両大会ともにWeb大会のみになりました。しかしながら、担当校の充実したご企画で、海外からの特別講演や多様な研修機会が与えられました。ご苦労・ご尽力くださいました担当校の皆様に、この場をお借りして、深く感謝申し上げます。
 その翌年の第41回大会は、理事会主催で行い、『心理臨床の未来と心理臨床学会』のテーマのもとに、10月1日~2日という短い日程でしたが、対面大会を開催いたしました。参加人数を限定しましたが、事例研究発表や会場参加のシンポジウムを行うことができました。また、Web大会は、対面大会に先立って9月2日~25日に開催いたしました。
 そして本年の第42回大会は、理事会主催にて、『心理臨床学の新たな多様性を拓く』のテーマの下、対面大会は9月1日~3日の3日間、その後、Web大会は9月22日~10月12日の21日間にわたって開催されます。
 この間、新型コロナウイルス感染症がいつ収束するか全く分からない状況にあって、開催日数や会場をどれだけ確保するか等の決定は非常に困難でありました。2024年度以降は、こうした心配は少なくなり、事例研究開催日数を増加することや自主シンポジウムの対面による開催等が可能になろうと期待しております。
 会員の皆様には、この間、大変なご苦労をお掛けしましたが、ご理解いただきましたこと、厚く感謝いたしております。今後とも大会運営につきまして、ご協力をお願い申し上げます。

(副理事長 伊藤良子)

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