若年層に〈MBTI〉ブーム現象

 昨年からZ世代を中心とした若年層で〈MBTI〉ブームが巻き起こっているのをご存じでしょうか。しかし多くが〈MBTI〉と思って受けているのは、ネット上で無料提供されている16Personalities(以下16PT)という「性格診断テスト」で、MBTIとは似て非なるものです。この16PTは、行動特性論のBig Fiveを作り直し尺度化したものですが、妥当性のデータ公表を拒否し続けている「テスト」です。しかし16PTの結果はMBTIのオリジナルのタイプ表記(例:ISTJやENFPというMBTIの指標の頭文字の組み合わせた表示法)をそっくり流用しているため、手軽に受けられる無料の“MBTI”と思ってしまったようです。

MBTI とは

 C.G. ユングは無意識の探求者としてよく知られていますが、無意識を探求するにあたり「意識」をこそ深く探求した人でもあります。かれがIndividuationをたどる第一歩として書いたのが『心理学的タイプ論』です。このユングの『タイプ論』に基づいて、「性格」を「質」と「カテゴリー」でとらえ、国際規格のフォーマルアセスメントとして半世紀以上前に研究開発がなされ完成されたThe MBTIという二者択一の質問項目からなる質問紙法の性格検査があります。米国から普及し、現在40カ国語以上の翻案版が出版され世界で最も使用されている心理検査の一つです。MBTIとは、Myers Briggs Type Indicatorの略で、米国人の親子MyersとBriggsがユング本人の許可を得て、1923年から約20年の開発過程を経て、ユングが提唱した心的態度と知覚と判断の心的機能、そしてMyersらが見出したもう一つの心的態度を加えた4指標に基づく質問項目を開発。その後心理検査の学者McCaully博士やユング派臨床心理学者Quenk博士らの尽力によって膨大なデータによる信頼性と妥当性を確保し、1942年に初版を出版。今日にいたるまで質問項目の見直しは定期的に行われ、妥当性の研究はUpdateされ続けています。
 そのMBTIが世界各国で信頼を得てきた理由に、100%受講生のために開発されたメソッドだからでしょう。MBTIは、回答結果はきっかけとして扱い、そこから受検者本人が自分の回答結果に本来の自分が表れているのかどうかを、有資格者(MBTI Qualified User)と検証するプロセスを最も重要としています。受検者が有資格者との対話や演習を通じ、理論と自分の実際を結び付けながら体験的に気づきが得られ、多くの演習を通じて他者理解も深まるしくみにもなっています。
 なぜ有資格者を介するのか。それは、人は自分のタイプ(認知スタイル)を通じて自分のこと含め、他者、ものごと等の“世界”を認識しているので、自分だけで客観的に自己分析をするのは限界があるからです。
 そのため有資格者の資質とスキルが非常に重要なメソッドともいわれており、世界各国、有資格者の合否の審議と育成には多大な労力と時間をかけるのです。

真の多様性と真の豊かな世界

 MBTIは国際学会が2年に1度開催され、世界中から有資格者が1万人ほど集まります。MBTIを体験した人たちが集まると、人種、性別、言語、宗教、年齢、職業、学歴などの違いに気づかなくなるほどに、MBTIが“共通言語”の国がまるで実際そこにあるかのような、まさに“Diversity&Inclusive”を随所で体感できる学会でした。日本でMBTIを倫理的かつ正しく普及させられたら、他者と比較しがちな見方から解放され、自我の確立が促され、真の多様性の体感値があがり、人間関係の諸問題の解決になりうると考えていたので、学会でのそれらの体験が、筆者の決意を後押ししてくれました。

日本版MBTI

 単独で渡米し、MBTIを取り扱う資格を取得、日本人ではじめての有資格者となった上で、日本版MBTIの開発計画とプロモーションの企画書をCPP社に持ち込み、受理されます。その後、国際MBTIトレーナー(Qualified Userの育成および資格付与の講座の開催ができる資格)として訓練を受け、前出のQuenk博士の教育分析とSupervisionも受けながら、約10年かけて、日本の文化、日本語の特異性、日本人の自我や個の確立のありかたなどを考慮した質問項目とフィードバック手法が完成。2000年にようやく日本版MBTIの出版と倫理的普及のための国際規格の日本人向けトレーニング講座を開始。自我の確立がゆっくりである日本人へのフィードバックは、より倫理的でスキルも高くないと、受検者を路頭に迷わせてしまう危険があるため、どの国よりも厳格な倫理規定と評価基準を設定、第三者による倫理委員会も設立し、倫理違反が疑われる有資格者には再教育を施すなどして、とにかく「受検者の利益ために」をモットーに、地道な普及してまいり、現在日本でも延べ3000人も有資格者が誕生しています。

タイプ論への誤解を未然に防ぐ工夫

 MBTIは類型論の検査ですが、“認知スタイル”をタイプと呼称し、かつHighly Individualという点も重視したメソッドですから、いわゆる類型論とは一線を画します。しかし「タイプ」という言葉は決めつけや型にはめるようになりがちなので、日本では「タイプ」を「こころの利き手」として紹介してきました。誰もが二項対立の両方とも持ち使っているが、どちらかというと自然で当たり前につかっている心が「こころの利き手」。一方あえて使っている心や使ったときにエネルギーを消耗する心が「利き手でないこころ」です。そして利き手だからといって字が全員上手ではないのと同じ、「利き心」を上手下手という視点で捉えることはできません。また同じ“利き心”であってもその「利き心」と関連する特性や能力の習得レベルや表現の方法には個人差がありますから、同じタイプが全く同じ性格ということもありません。ネットの声を見る限り、そこがやはり誤解されているので、痛恨の極みです。
 本来のMBTIは、自分のこころの利き手を知り、その強みと課題と対峙し、熟達する指針と、利き手でない方の心の開発の指針も得て、自分と異なる利き手を持つ人への理解も深め、認知の成熟を促すものです。またMBTIは“個性化の過程”のためのタイプダイナミクスの分析もできるので、故に自分の深いところの分析が継続的に可能で、心の羅針盤となるメソッドです。

VUCA の時代に不可欠な自己理解

 今回のブームは、実は若い人たちが「自分を知ることの大切さ」に気づき始めた表れではないかと考えています。だからこそ誤った自己理解が促進される危険がある「妥当性の検証がなされていないかもしれない」無料の16PTをMBTIだと信じて受けられてしまっている現状は、力不足を痛感しています。軽い気持ちで受けたとしても、ISTJと一度“診断”されたりすると、確証プロセスが生じ、徐々に自分を“ISTJ”のほうに近づけようとすることがあり、結果自分を見失うこともあるからです。
 自己分析は、信頼できる第三者と共にする作業であることに気づいてもらい、世界各国で信頼されている本来のMBTIと有資格者に出会うか、信頼できる臨床家に出会い、VUCAの時代だからこそ自分たる所以を確立し、多様性から学ぶ視点と、成長のための羅針盤を持ち、自信をもって歩まれますことを願って止みません。

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