成田善弘〔著〕 金剛出版、2007年

*本稿では、主に大学院生の方を想定して書籍の紹介をします。

初学者に道案内をしてくれる本

 心理職を目指すにあたって、多くの方は大学院の附属相談室ではじめてクライエントの支援を担当すると思います。支援を進める中で、「どう面接を進めればいいのか…」「〇〇という時は、どうしたらいいのだろう」と悩まれることがあるのではないでしょうか。「正解がないのが心理職の仕事」「簡単に答えを出そうとせず、悩むことが大事」ということはよく言われますが、とはいえ初学者は進む方向がわからない状態です。森の中に案内されて、「あとは自分で道を見つけてね」と言われても困惑する気持ちの方が大きいでしょう。本書は、支援を行うにあたって悩んだ際に、一つの方向性を示してくれるものだと思います。初学者にとって助けとなると思われることとして、三点を挙げます。

面接の構造について

 一点目は、面接構造や支援者の姿勢といった、面接の場を支える事柄について教えてくれる点です。支援者は、支援を行うにあたって「面接をどのような場で行うのか」といった設定を設けますが、そのことはなぜ必要なのでしょうか。本書では、第二章の最初の項で「治療構造の設定」について述べられています。本書で学んだ後に、自分ならばどのように内容を説明するかということを考えてみてはいかがでしょうか。面接に構造(場や時間の限定など)を設ける理由について説明ができることは、他職種に心理士の仕事について理解してもらううえで重要だと思います。また、クライエントが「心理面接とはどのようなものか」を理解することにも役立つと思います。

クライエントを理解する視点

 二点目は、「面接において、どのような観点からクライエントの現状の理解を行うか」のヒントを示してくれている点です。相談に訪れたクライエントは、現在の状態について自分なりの考え(理解)を持っています。本書では病気についての捉え方という観点ですが、クライエントが自分の状態をどう理解しているかの可能性を示してくれています。支援者はクライエントと別の視点で理解することはあると思いますが、「なぜそのようにクライエントが捉えているか」を考えるきっかけとなるかと思います。医療領域のみならず、他領域での支援にも参考となるところがあるのではないでしょうか。

支援の中で出会う悩みについて

 三点目は、初学者が特に出会うと思われる悩みについて、著者が考えを提示してくれている点です。例えば、「治療者が患者にこれ以上きくことがないと感じて、何をきいてよいかわからない場合」という項があります。実際の支援のみならず、講義におけるロールプレイでも、このような経験をされたことはあるのではないかと思います。自分の困り感を考えるヒントとなるかもしれません。そのほか、クライエントから、支援者としての経験年数など、個人的な事柄を質問された場合についても書かれています。最終的には自分自身で、支援の場で起きていることを考えるということが大事になりますが、本書を読むことで、どのように支援を考えるかという方向(視点)が見えてくるかもしれません。

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