日本心理臨床学会が設立されてから、約四〇年になります。この間、「臨床心理士」や「公認心理師」という専門資格や国家資格ができました。これは、多くの先輩や会員の方々が日々の心理臨床の実践の中で積み上げてこられたことが社会的にも認められてきた証であると思います。またさらに、その実践は、社会の中の様々な場面や領域に広がってきていて、それぞれの専門性を生かした多種職での連携や協働が進められてきています。
 このように社会的にも、また資格という形でも認められてきた、私たちの専門性が一体何かということを、今、改めて実践の中から言葉にしてみたいと思いました。本学会の職能委員会では、四年くらい前から、多職種連携における心理臨床の専門性や独自性についてというテーマで一連のシンポジウムを行い、様々な領域でご活躍されている心理臨床家の方々に、それぞれの実践を語っていただきました。
 これらの一連のシンポジウムの中で、ひとつの共通点が見えてきました。それは、心理臨床の独自性や専門性は「心理臨床家ならではのクライエントの理解の仕方」にあるというものでした。職能委員会でも議論をしたところ、この理解の仕方は、症状や問題行動などの見立てや理解についての知見ともいえる「知識の部分」と、相手の在り方をみながら対応するかかわり方の部分「関係性の部分」とに大きくまとめることができました。
 「知識の部分」はこれまでも学問として構築されてきており、教育としても提示しやすい内容なのですが、「関係性の部分」はなかなか言語化が難しいこともあり、教育としても手間暇のかかるところです。それは、他者との間で起こってくる様々な「体験」を自ら扱っていくことが求められているので、教科書を読むだけではなかなか学べないものです。しかし、この「関係性の部分」こそが心理臨床の実践においてはとても大切な部分でもあります。
 それゆえ、本学会の目的でもある心理臨床学を構築していく上で、これらのことを言語化し見える化していくことが重要であり、取り組むべき課題であると思っております。

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