ハラスメントとは?
「ハラスメント(harassment)」とは、相手に不快感を与えるような言動や嫌がらせなどの迷惑行為を指します。ただ、何を「不快」と感じるかは人によって異なるため、具体的にどのような行為がハラスメントに該当するのかについては、曖昧な部分が多いことが特徴です。最近では個人が不快に感じたことは何でも「〇〇ハラ(ハラスメントを略した呼び方)」と言うことを耳にしますが、そのような一方的な決めつけは過度な反応に感じられます。ある行為がハラスメントか否かということについては、その状況における一般的な行動からのズレや、そのような行為が生じた文脈も踏まえて考えていかなければなりません。
実際に学校や職場で問題になるハラスメントは、セクシャル・ハラスメントとパワー・ハラスメントです。セクシャル・ハラスメント(セクハラ)とは、一般的に「相手を不快にさせる性的な言動」を指します。また、パワー・ハラスメント(パワハラ)とは、基本的に「力関係のある他者との間(例:上司―部下、教員―学生、先輩―後輩など)において生じる嫌がらせや不当な扱い、その他の相手を不快にさせる言動」を指します。特に、大学等の教育機関におけるパワー・ハラスメントは、アカデミック・ハラスメント(アカハラ)と呼ばれています。
セクシャル・ハラスメントの特徴
キャンパスでセクシャル・ハラスメントが起こりやすいのは、教職員と学生との関係、または、学生同士の関係においてです。同性間でも生じうるものですが、男性から女性に対するものが最も多いです。セクシャル・ハラスメントには、次の3つの類型があるとされています(櫻井ほか、2023)。
・環境型:性的なものや差別的な言動によって、他者に不快感を与える行為(例:いろいろな人がいる場所で性的な内容の雑談をする、相手の恋愛関係を細かく聞く、性差別的な発言をするなど)
・対価型:何らかの取引を提示する形で性的な要求をし、応じない場合は不利益が生じることを示唆する行為(例:男性の先輩が困っている後輩女性の相談にのると称して一人暮らしの自宅に来るように要求し、断られるともう面倒は見ないと突き放すなど)
・事件型:わいせつ行為や性加害に該当するもの(例:盗撮、ストーカー行為、性的接触、性暴力行為など)
対価型や事件型は、意図的で非常に悪質な行為と言えますが、環境型は、個人が意図していなくても、冗談を言う場面やお酒の場などでマナーの緩みとして生じてしまうことがあります。また、日常的な言葉や価値観の中にも性差別的なニュアンスや個人の多様なセクシャリティを否定するようなものが含まれていることがあるため、言動には十分注意を払う必要があります。
アカデミック・ハラスメントの特徴
キャンパスにおいてアカデミック・ハラスメントが起りやすいのは、主に教員と学生との関係においてです。他にも、部活動や研究室などの先輩と後輩との関係においても生じうる問題です。アカデミック・ハラスメントに該当するような行為は多岐にわたります。また、同じ行為であっても、当事者間の関係性によって受け止め方が異なるため、グレーゾーンが大きいことが特徴です。教員と学生との間に生じるアカデミック・ハラスメントについては、大まかに分けると、①教員側の指導が行き過ぎた結果ハラスメントとなる場合と、②指導とは言えないような学生に対する嫌がらせや人権侵害的な行為である場合との2つのパターンに分けられます。
・教員側の指導が行き過ぎた結果ハラスメントとなる場合
学生指導に熱心な教員は本来学生にとってありがたい存在ではありますが、教員の熱心さや期待を学生が受け止めきれない時もあります。例えば、学生の成長を期待してあえて教員が厳しい言葉をかけたことが学生には過度に叱責されたと体験されたり、よい研究をしてもらうために教員が課した課題が学生には過大な要求をされているように感じられたりすることなどです。このようなハラスメントは、両者の考えの食い違いやコミュニケーションが十分に取れていないことに基づいて生じていることが多く、双方の話を整理し、関係を調整することで解決することがあります。
・指導とは言えないような嫌がらせや人権侵害的な行為である場合
教員と学生の関係は「指導する―指導を受ける」という関係にあるため、明確な上下関係が成立しやすい構造にあります。そのことを悪用して、教員が「自分に逆らうと卒業できなくなるぞ」と学生を脅したり、学生の失敗に対して人格まで否定するような叱責をしたり(例「こんなこともできないなんて人間のクズだ」など)することなどが該当します。他にも、教員が、学生に学業や研究とは関係のない雑用を押し付けたり、学生の指導を放棄したり、関係のないことを成績と結びつけて不当に評価したり、特定の学生にだけ連絡を回さないなどの行為は指導の範囲を逸脱したアカデミック・ハラスメントと見なされることがあります。
キャンパスでの対応と気をつけるべきこと
キャンパスでハラスメントが発生すると、被害を受けた学生が傷つくだけでなく、教育環境としての適切さが大いに損なわれ、世間の大学に対する信頼感の低下にもつながりかねません。そのため、多くの大学ではハラスメントの予防に取り組んでおり、定期的に学生への教育講演や教職員の研修などを行っています。また、ハラスメントに関する専用の相談窓口を設けており、被害を受けた学生の相談に応じています。
ハラスメント問題において個人が気をつけるべきこととしては、まずはハラスメントに関する正しい知識を持つことです。そして、ハラスメントに該当するような被害を受けたら学内の相談窓口に相談することです。ハラスメント行為は、黙っていて治まるということはほとんどありません。「自分さえ我慢すればよい」という対応では、被害はよりひどくなっていくかもしれません。相談したからと言ってすぐに大学に申し立てるという事態になるわけではないので、まずは勇気をもって相談することが大切です。同時に、自身が意図せず加害者にもなりうるということにも十分注意しておくことが必要です。何よりも、教員や周囲の学生としっかりとコミュニケーションをとり、良好な人間関係を築いていくことが予防において最も重要なことになります。
●参考文献
櫻井義秀・上田絵理・木村純一・佐藤直弘・柿崎真実子(2023)『大学のハラスメント相談室』北海道大学出版会