編集後記

 今号の企画を考えるために委員たちが集まったのは、二〇二〇年一月二六日㈰の午後でした。いつもの会議室で、いつものように熱心に話し合いました。厚生労働省検疫所のHP記録をみると、同年一月一〇日付けで「中国湖北省武漢市で病因不明の肺炎の集団発生が報告されました」とあるものの、世界中が直撃される事態を、このとき、何人が予測できていただろうかと思います。
 同年三月二日から全国の小中校などが臨時休校となった後の三月六日に今号の執筆依頼が全執筆者に送られ、原稿〆切が五月一一日でした。多くの執筆者は同年四月七日より一部で始まり、四月一六日に全国に広がった緊急事態宣言下で、今号の原稿を執筆したと思われます。その証拠に、記事のあちこちでコロナ禍のことが出てきます。長州力様との巻頭対談は六月七日に都内で行われました。コロナ禍のことや、SNSのこと、直近の事件のことなど、今この時だからこその対談になっていると思います。
 さて、今号は二つの特集を含めた多彩な内容で、心理臨床実践の多様性を改めてじます。また、心理カウンセラーというと、相手を受容し、その語りに耳を傾けるというイメージが主のように思いますが、そうではない心理臨床家の一面を本号の記事の端々から感じます。それは、社会に対して積極的に関与すること、社会へアサーティブな表現をして行くという姿勢です。このことは専門家として責任性を強く伴う行為です。しかし、その決意や厚い思いを本号から感じます。読者はどう感じられたでしょうか。
 この「編集後記」を書いているのは七月中旬です。今号をもって私たち委員の任期が終わります。どんな方々がこの「心理臨床の広場」を読んで下さっているのか、ずっと気になっていました。いつものように会って話し合うという当たり前の日常生活や面接場面が、当たり前には行えない事態をコロナ禍で突きつけられた心理臨床家たちは、より実践活動を高めていくでしょう。
 今この記事を読んで下さっている高校生の貴方へ。数年後に、臨床現場で一緒に働きませんか。心理臨床ワールドに、ようこそ! (編集委員 津川律子)

事務局だより

 春の甲子園大会が中止になりました。卒業式も中止になった学校もあります。入学式を行わない大学もあります。中国の武漢では多くの犠牲者が出ました。ヨーロッパの国々では外出禁止の国もあります。東京オリンピックはどうなるのでしょうか。新型コロナウイルスの影響は甚大です……と、事務局だよりの依頼を受けた三月一八日に原稿を書き始めました。その後、四月七日には緊急事態宣言が出され、他の国々のように都市封鎖には至らなかったものの、外出の自粛や行動制限によりようやく沈静化の方向にあります。しかし夏の甲子園大会も中止になり、東京オリンピックも二〇二一年度に延期されました。一九一八年に始まったスペイン風邪は五〇〇〇万人から一億人の死者を出したと言われています。その結果、第一次世界大戦の終了が早まったという説もあります。感染症の社会的影響の甚大さがわかります。
 事務局担当としての田中理事長、杉江財務担当理事、それと井村の任期は五月末に終わる予定でした。しかし、緊急事態宣言下で、社員総会の開催もままならず、次にバトンタッチできていないのが現状です。幸いIT機器の発達により、WEBでの会議にもだいぶ慣れてきました。しかし、残念ながら夏の横浜での二〇二〇年度の学術大会は、感染予防のため断念するに至りました。発表の一部については、WEBでの会を開催予定です。事例研究やシンポジウムをどのように行うかは現在検討中です。
 一〇〇年に一回は、このようなパンデミックも起こるのだと、改めて自覚させられました。何も起きないことがいかに大事なのか、自由で平穏な日常の有難さが身に染みるこの頃です。会員のみな様、健康に留意していただき、日々の心理臨床活動や研究、教育に貢献していただくことを願っています。 (副理事長 井村 修)

心理臨床の広場25
Vol.13 No. 1
2020年8月30日発行
◦広報委員
岩倉 拓 葛西 真記子 桑原 知子 津川 律子
◦編集委員
秋田恭子 池 志保 井ノ崎 敦子 内田 亮 佐藤 宏平 柴田 彩 園田 雅代 寺崎 真一郎 東畑 開人 西河 正行 西田 泰子 野村 れいか 人見 健太郎 松本 聡子 山口 貴史 山崎 孝明 山中 淑江
◦編集協力/ 製作
株式会社創元社
〒541-0047 大阪市中央区淡路町4-3-6
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一般社団法人 日本心理臨床学会
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TEL 03-6273-4061 FAX 03-5223-2755
ホームページURL https://www.ajcp.info/
◦印刷製本 株式会社太洋社
次回予告(2021年3月発行)

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