はじめに
2019年10月末、私は日本心理臨床学会より国際交流助成を受けて、イタリアのローマで開催された7th Biennial European Society for Trauma andDissociation Conference( 以下、ESTD) に参加しました。私が参加したESTDはトラウマや解離に関する学会であり、今回は「新しい視点での身体と心」がテーマでした。学会では、トラウマや解離の治療を専門とする心理臨床家が多く集い、トラウマ治療に関する最新の理論や知
見をはじめとして、近接領域の基礎・臨床研究、そして実際の治療セッションの研究報告まで幅広い研究が見受けられました。私は近接領域として、身体的虐待や性的虐待などのトラウマティックな体験や解離症状と密接な関係にある自傷行為に関する基礎研究をポスターで発表しました。
国際学会に参加して学んだこと
解離やトラウマ治療に関する研究発表や講演を拝聴した際には、「身体」がテーマとして掲げられていたこともあり、身体へのアプローチに着目した心理療法に注目が集まりつつある印象を受けました。また私が発表した自傷行為も自身の「身体」を直接的に傷つける行為であることから、こうした最新の知見や治療の視点に触れたことで、自身の研究を新たな視点から見つめ直す機会を得ることができました。
また私と同じように、自傷行為そのものに焦点を当てた研究発表もいくつか見受けられました。参加者とのディスカッションを通して、本邦よりも自傷行為に関する実証的研究が発展していることを改めて知ることができました。加えて、文化的な差異について海外の研究者と直接ディスカッションできたことは大変貴重な機会でした。国際学会に参加したことで、今後本邦においてはさらに自傷行為に関して実証的研究に基づいた知見を積み上げていく必要があること、そして研究成果を積極的に国際学会等で発表することが、研究の発展においては重要であることを再認識することができました。
国際学会に参加することのハードルと魅力
国際学会に参加することには、様々なハードルがあるかもしれません。私の場合は、やはり高額な旅費と英語力が大きなハードルでした。国際学会に参加するためには、(地域や開催時期にもよりますが)国内の学会と比べて、高額な費用がかかってしまいます。実際に私が今回ローマで開催された国際学会に参加するためにかかった費用は合計で15 万円ほど必要でした。しかしながら、日本心理臨床学会には国際交流助成という制度があり、今回この制度を申請・利用させていただいたことで私の旅費に関する不安や負担は無くなりました。海外の研究者と実際に言葉を交わして研究について交流することは、国内の学会では味わえない貴重で魅力的な機会ですので、旅費にハードルを感じている方には、こうした国際交流助成の制度があることを知っていただきたいと思っています。
また私は自分の英語力に自信がなく、国際学会に参加することに大きなハードルを感じていました。しかしながら、実際のポスター会場では丁寧に私の英語を聴いた上で質問をしてくださる先生方が多かったため、落ち着いて発表をすることができました。また国際学会に参加して改めて自分の英語力の課題に客観的に気づくことができ、今後参加するにあたって自分の中で具体的な目標を設定することができました。なお私が参加したESTD では、コーヒーブレイク(小休憩)の際に軽食としてイタリア料理が振る舞われており、現地の料理を楽しみながら、会場で気楽に意見交換ができる点も国際学会における魅力の一つであると感じました。
おわりに
現在は新型コロナウイルスが世界的に流行しており、実際に現地に行って学会に参加することが難しい状況がしばらく続きますが、いずれ安心して渡航できる日が来た時には、これまで参加したことがない方にも、ぜひ参加を検討していただきたいと思っています。