編集後記

 コロナ禍で編集委員も対面かなわず、オンラインでの会議と編集作業が続いている。なかなかに疲弊するやりとりである。そんな中粘り強く作成に関わってくれた皆様に感謝したい。
「心理臨床の広場」はオンラインで公開することが決まっている。それを意識して、26号から、3つの特集の「届け先」を明確にして執筆されている。特集1は若年を中心としたマスに向けて、特集2は臨床家に向けて、特集3は当事者に向けて、というように明確にし、その上で、できれば結果的に多くの人が読んで面白いものに、という目論見なのだが、今号ではどこまで達成できただろうか?
 巻頭対談は福島先生が縁があるということで、今を時めく島本理生氏にお引き受けいただき、実現した。味わい深い対談はまさに僥倖に恵まれた思いである。
 内容については現在のコロナ禍の困難な状況を反映したい、しかし、長く読まれるものにもしたい、ということを念頭においての企画会議だった。特に気になっているのは、若年層の自殺が増加しているとの報道である。コロナ禍は、親密さに多大な打撃を与え、イベントの中止あるいは開催などに翻弄され、ヘイトや怒り、やりきれなさ、無力感が蔓延している。経済的な損失、心理的喪失などの影響もこれからが本番であろう。わたしたち臨床家は特に子どもや若者への影響を肌で感じている。その中で、特集1は敢えて「希望」に的を絞り、希望を取り戻し、持ち続けることについて「取説」として手に取ってもらおうと考た。
 特集2「書くことと発信していくこと」は、私たち臨床家に向けている。「心理臨床は、クライエントとのパーソナルな営みでプライベートなもの」私自身はそんな思いが強かった「古い」タイプの臨床家だと思う。広報などに携わり、他の委員との対話の中でその思いはこの数年徐々に変化してきた。私たちの臨床知を社会に向けて発信することの必要性に気付くようになった。それが、必要な人に私たちの援助の手を届けるための重要な道である、と。プライバシーなど守るべきものをしっかり見極め、その上で何をどのように発信していくのかは、心理臨床にとって重要な今日的課題であり、私たち全員がこのことについて考え、レベルアップしていく必要があるだろう。日々、発信を実践している執筆者達の論は極めて刺激的で示唆的である。
 26号からはじまった「当事者のための心理教育」は、今号は「負の感情の言葉」に具体的に絞り、その感情を感じた時、どのように取り扱うのか各領域の専門家に執筆をお願いした。答えはひとつではないだろうから、同じ感情に異なった角度から書き出してもらった。当事者に向けては「こんな気持ちが起こったときにお読みください」という思いである。まさに、これが臨床知をどのように社会的に発信するかの試みだと言えよう。
 正直なところ、今までやや内輪感があった雑誌だっただろう。何を隠そう、私自身もいままで全てを目を通すことも少なかった。しかし、WEB公開に向けて、「心理臨床の広場」を広く一般に読まれる雑誌に育てていくこと。その背景にある心理臨床がこの困難な社会にどのように役立っていけるかという問いを課題と考え、発信していくこと。今号に通底しているテーマはそこにある。 (広報委員 岩倉拓)

事務局だより

 昨年、世界を襲った新型コロナウイルス。パンデミックによるダメージは、私たちの生活の細部にまで渡っています。丁度1年前の夏、現在の第6期執行部がスタートし、8月の学術大会を延期し、11月に、初めてのWebによる大会を運営しました。そして、今年8月の記念すべき40周年大会を通常の対面方式とWeb方式のハイブリッドで行う予定で、準備を進めてきました。
 しかしながら、ワクチン接種が開始され、オリンピックも開催の運びとなったものの、感染状況は、新たな変異株が勢いを増し、予断のならない状況が続いています。このため大変苦渋の決断ではありましたが、大会実行委員会、業務執行理事会などで慎重に協議をし、今年度の大会を引き続きWeb方式の開催のみとなりました。
 学術大会は、会員が、対面でしっかりと専門的な議論を行える貴重な機会です。今後も引き続き、安心・安全にこの学びと発信の環境を提供できる学会を目指して、来年度は、執行部を中心に新たな大会を運営に取り組みます。
 ところで、Web方式による会議、集会、研修は、必ずしもマイナスな事ばかりではありません。社会では、その特性をポジティブに活用して、リモート型の就業を普及させたり、遠隔地でも様々なサービスが受けやすくなったり、世界とのつながりがより身近になるなど、新しい生活様式が生み出されています。学会の委員会も、今期は、ほとんどがZoomによる会議が中心です。リアルに集ってじっくりと話し合いたいという思いが募りますが、それでも、この緊急事態に何とか委員会の機能を低下させずに活動が続けられるのは、このシステムをしっかりと整えられ、事務局員の方々が迅速に適切な支援をしてくださっているおかげです。
 まだまだ、先の見えないところは大きいのですが、今後はこの2年間の試行錯誤で学んだ経験を生かし、3万人近い本学会員の皆様と共に、多様な学びを得ることのできる学会として、前進できることを願っています。 (常任理事 青木紀久代)

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