ストーリー

 月島雫は明るくて読書好きの中学三年生です。雫が出会った少年、天沢聖司は中学を卒業したらイタリアに渡ってヴァイオリン職人の修行をしようと決意していました。夢に向かって着実に歩く聖司に心ひかれながら、将来も才能もすべてがあいまいな自分に焦りを感じる雫。純粋に人に憧れ、人を恋することのできる大切さ、素晴らしさを描いています(スタジオジブリDVD解説より、一部改変)。
 ここでは、『耳をすませば』を題材に、「共感」について一緒に考えていきましょう。

場面1:親友の夕子に共感する雫

 まず、「共感」の場面をみてみましょう。登場人物は、主人公の雫、親友の夕子、クラスメートの杉村です。夕子は杉村に密かに思いを寄せています。そのことに気づいていない杉村は、同じ野球部の友人に頼まれて、夕子にラブレターの返事を催促してしまいます(図1)。
 雫のところにやってきた夕子の泣きはらした顔をみて、雫は驚きます。夕子は雫に、杉村とのやりとりを泣きながら話します。そして「こんな顔じゃ学校行けないから」と、翌日のテストも休んでしまいます。
 次の日、突然泣き出した夕子にわけがわからない杉村は、雫を呼び止めます。

 杉村「なあ俺、何か悪いこと言ったかな」(略) 雫「杉村にはそんなこと、言われたくないってことよ。この意味、わかるでしょう」 杉村「わかんないよ! はっきり言ってよ!」 雫「もう、本当に鈍いわね。夕子はね、あんたのことが好きなのよ!」 杉村「えっ!? そんな俺、困るよ!」 雫「困るって、かわいそうなのは夕子よ! ショック受けて休んじゃったんだから!」

 さて、杉村に腹を立て、「杉村にはそんなこと、言われたくないってことよ」と夕子の気持ちを代弁した雫。一体どんな気持ちだったでしょうか? 雫は、ラブレターの返事を杉村に催促されて、夕子がどんなにショックを受けて傷ついているか、夕子の気持ちを感じとっています。そして、夕子自身であるかのように、ショックを受け、杉村にいらだちをぶつけているようです。このように、相手の気持ちを感じとり、あたかも自分自身のものであるかのように、それを理解し、共有することを「共感」といいます。

場面2:夕子に相談する雫

 次に、「共感」についての理解を深めるために、もう一つの場面をみてみましょう。
 登場人物は、雫と夕子です。雫は聖司がイタリアに二か月間、ヴァイオリン職人の見習いに行くことを知り、「頭がぐちゃぐちゃ」になって、夕子に話を聞いてもらいます(図2)。夕子の部屋での二人の会話をみてみましょう。

 雫「二か月で帰ってきても、卒業したらすぐ戻って、一〇年ぐらいは向こうで修行するんだって」 夕子「ほとんど生き別れじゃない!でもさ、こういうのこそ、赤い糸っていうんじゃない? ステキだよ」 雫A「相手がカッコよすぎるよ。同じ本を読んでたのに。片っぽはそれだけでさ。片っぽは進路をとっくに決めてて、どんどん進んでっちゃうんだもん」 夕子A「そうかあ・・・・・。そうよね。絹ちゃん一年の時、同じクラスだったじゃない。天沢君ってちょっととっつきにくいけど、ハンサムだし、勉強もできるって言ってたわ」 雫B「どうせですよ。そうあからさまに言わないでよ。ますます落ち込んじゃう」 夕子B「なんで? 好きならいいじゃない。告白されたんでしょ」 雫「それも自信なくなった・・・・・」 夕子「ふーっ。私わかんない。私だったら、毎日手紙書いて、励ましたり、励まされたりするけどな」 雫C「自分よりずっと頑張ってるやつに頑張れなんて言えないもん」 夕子C「そうかなあ・・・・・。雫の聞いてるとさ、相手とどうなりたいのか、わからないよ」

 では、この場面を使って「共感」の練習をしてみましょう。
 まず、夕子Aの「そうかあ・・・・・。そうよね」という言葉は、雫Aの「相手がカッコよすぎるよ。・・・」という気持ちに共感して出た言葉だと考えられます。
 雫Bの発言で、雫はとても落ち込んでいることがわかります。それに対して、夕子Bは「なんで? 好きならいいじゃない」と答えます。ここで、雫の気持ちに「共感」したあなたは、どんな言葉をかけますか。雫の言葉のうらにどのような気持ちがあるのか、感じとってみましょう。そして、「その気持ち、よくわかるなあ」と思えたら、それを言葉にしてみましょう。例えば、「そうだよね・・・・・。天沢君はハンサムだし勉強もできて、進路も決めてて・・・・・。自分は?と思うと落ち込むよね・・・・・」といった返事が考えられますね。
 また、「自分よりずっと頑張っているやつに頑張ってなんて言えないよ」という雫Cに対して、夕子Cは「そうかなあ・・・・・」と言い、納得していない様子です。あなたは雫に「共感」して、どのように答えますか。例えば、「そうよね。相手がすごく頑張っていることがわかっているのに、頑張れとは言えないよね・・・・・」といった言葉かけが考えられそうです。

おわりに

 相手を理解し、良好な人間関係をつくろうとする際、「共感」はとても役に立ちます。しかし、「共感」は表面的な技術ではなく、「自分の気持ちであるかのように感じとること」が大切なポイントです。臨床心理学においては、クライエントに対する「共感的理解」は、カウンセラーに求められる基本的な態度であるとされています(Rogers, C. R.)。その際、自分と相手との感情を混同することなく、自分と相手は違う人間であることを認めたうえでの「共感」が重要といえます。

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