高齢者における喪失

 独居高齢者や孤独死が増えているといった報道が近年多くなってきています。では、高齢者は孤独を感じやすいのかというと、他の年代と比較して特に孤独を感じている人が多いわけではないことがわかっています。
 多いわけではないですが、他の年代同様に高齢者も一定の割合で孤独を感じている人がいます。高齢者の場合、喪失がひとつのキーワードになります。一般に高齢者は「経済的基盤」「心身の健康」「社会的つながり」「生きる目的」の喪失を経験しやすいと言われています。この中で直接的には、社会的つながりの喪失が孤独感に直結しやすいと言えます。仕事からのリタイア、子どもや孫の独立、友人、兄弟、配偶者らの死別、自身の病気や障害による入院や施設入所などが、高齢者に特有の社会的つながりの喪失と言えます。

孤独を感じないために

 心身の健康を維持し、なるべく長く仕事を続けられるようにすれば(経済的に続けざるをえないということもありますが)、孤独をあまり感じずに済むかもしれません。それが難しい場合でも、ボランティアや地域活動などの社会貢献活動や、趣味の集まりなどに積極的に参加することは孤独感を和らげるのに役立つでしょう。今さら新しいことをするのは抵抗があるという方もおられると思いますが、仕事でないのであれば、すぐにやめてもいいわけですから、まずは体験してみてはどうでしょうか。
 高齢期は身体的な衰えにより、外出が難しくなり、それにより孤独を感じるという方もおられます。しかし、今やインターネットのおかげで世界中の誰とでもつながりを持つことが可能です。インターネットは若い人のものだと思うかもしれませんが、じっとしたままでも人と交流できるツールですので、むしろ身体の不自由な人にこそ役立つツールではないかと思います。

孤独とともに

 ところで、ここまでどうやって人とつながるかを述べてきましたが、人とつながるというのは、そんなに当たり前のことなのでしょうか。「人間は元来一人で生まれて一人で死んで行くのである。大勢の中に混じってゐたからって孤独になるのは、わかりきったことだ」とは明治から昭和にかけて活躍した小説家、田山花袋の言葉です。孤独はいずれ誰にでもおとずれる人の宿命であり真理とも言えます。そうであるならば、孤独を恐れず、むしろ孤独ならではの楽しみ方や気楽さを味わってみるという考え方もあっていいのではないでしょうか。
 「孤独は嫌だ」「私をこんなに孤独にさせる周囲の人間はなんて冷たいんだ」と思い始めると、かえって人が寄りつかず、孤独を深める結果になるかもしれません。孤独を楽しめるくらいの余裕があったほうが、人間関係でしんどい思いをせずに済み、ほんのちょっとした人とのつながりに幸せを感じられるようになるのではないかと私は考えます。

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