編集後記

 本誌は年に2回発刊されますが、今年度から、新年度のスタートの時期と年度の折り返しの時期を目途に発刊するシステムに切り替わり、早くも今年度2回目となる29号をお届けすることになりました。
 29号の特集1では、一般読者向けに「すっきりする体験」を取り上げました。長期化するコロナ禍や不況は社会全体の空気を重くし、閉塞感が増しています。しかし、その中で自分を保ち、さらにはより良い方向へと自分を導いていくのは、雲に覆われた日常の中で時折見える晴れ間のように「すっきりする」一時があるからこそではないだろうか。そこで、心が「すっきりする体験」について、多様な立場の心理臨床家から、それぞれの実践または研究から得られた示唆に富む知見を提供していただきました。
 さらに、「当事者に役立つ心理教育」コーナーでは「自分に悩む」というテーマを取り上げました。「自分に悩む」ことで見える自分の再発見、悩みの捉えなおしなど、悩みに対する視点を変えて、本来は自分を大事にしようとする思いの一つであることに気づく手がかりになればと思います。
 一方、特集2では、心理職から語られる「子どもたちの思い」を取り上げました。社会情勢が厳しくなり、大人たちの苦悩が増す傍らで、子ども達の思い、心の傷はいつも置き去りになりがちです。日常的に子どもに接していない会員も少なくないと思いますが、日々子ども達と関わっている心理臨床家にその思いを届けてもらうことで、私たちが子どもへの思いを忘れることがないようにしたいと思います。
 一昨年から広報委員として作り手サイドに身を置く機会を得て初めて、この大変な作業がこれまで続いてこられたのは、心底これを楽しい、面白いと思う編集委員の方々がいて可能だろうなということを実感しました。また、今回の編集作業を機に、今まで届いた創刊号から通巻28号まで、書棚に並べ直しながら改めて気づいたことが一つ。身の回りをその気で見直してみると、実は私はたくさんの宝に囲まれて毎日を生きているということです。
 29号の中にはたくさんの宝があります。巻頭対談で坂口恭平氏がご自分の実践をもって社会や我々に投げ込む問いと挑戦は、本誌だからこそ味わえる大変新鮮な刺激ではないかと思います。本誌を手にするすべての方々に楽しい発見や気づきがあることを期待しながら、対談、執筆などご協力くださったみなさまに心から感謝申し上げます。
(広報委員 奇 恵英)

事務局だより

 日本心理臨床学会は、理事の改選により、第7期理事会が発足しました。それに伴い、本誌の編集も、次号から新しい委員へ引き継がれます。コロナ禍でも、本誌の発行が滞りなく進めてこられたのは、一重に委員の先生方のご尽力によるものです。本当にお疲れ様でした。
 それにしても、コロナの感染拡大について、既に3年目となりました。昨年の夏、ワクチン接種が定着してきており、多くの人が、来年へ向けて、なんとなく明るい希望を持っていたと思います。こうした予想に反して、未だコロナと共に私たちの暮らしがあります。
 感染対策の浸透は、私たちの生活を大きく変えました。テクノロジーの面でも、大きな進歩があり、リモートによる交流が格段と増えました。本学会も会議や学術大会の方法がこの2年で大きく変わっています。例えば年1回の学術大会は、コロナの影響を強く受け、昨年は対面の交流機会を全て取りやめ、オンラインによる大会となりました。今年は、神戸で対面による発表とオンラインによる発表を併用した、いわゆるハイブリッド方式となりました。発表の趣旨は変わりありませんが、新たな発表の媒体や形式を試しながら、様々な可能性を生かせるよう、来年度へつなごうとしているところです。オンラインによる、一般の方や高校生を対象としたプログラムも用意されておりますので、詳しくは学会のホームページをご覧ください。
 この3年の間に、ウクライナ侵攻が起こり、また、気象の異変に伴う大災害の多発、新たな感染症の出現など、世界のあり様は、大きく揺らいでいます。
 心理臨床の営みを通して、人々の心を探求する本学会が、こうした時代や社会のニーズに、しっかりと向き合えるよう、40周年を節目に、様々な角度からの自己点検を行ってきました。多様な変化を受け入れながらも、「変わらずに大切なものは何か」をしっかりと見極めながら、学術的な発展に向けて努めること。心の専門家として社会で広く活躍する本学会会員間の深い学びの場を護り、育てていくことが、心理臨床実践の質の向上に資する大切な営みであるということを、今期の振り返りとし、改めて実感するところです。
(財務担当理事・学会誌編集委員長青木紀久代)

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