子どもを社会で育てる仕組み

 子どもへの心理療法は、受ける子どもと家族が恩恵を得るから家族が費用を負担すべきだとすれば、お金のない家の子どもは心理的支援を受けられません。しかし、その子が心理的支援を受けられたら、誰も発見できなかったことを発見する人に成長したかもしれませんし、多くの人を救う人になったかもしれません。子どもが育たないことによる社会的な損失は大きい一方で、現実的には児童相談所の職員は常に不足し、継続的な心理療法を提供する公的な機関はほとんどないなど、子どもの心への社会的な関心は高くありません。公的な機関が無理なら、民間の機関で子どもを支える仕組みを作ろうと2005年に京都で発足したのが認定NPO法人「子どもの心理療法支援会」(通称サポチル)です。

発達障害と被虐待の2つに絞る理由

 公的機関なら財源は税金ですが、民間で家族からお金をとらないなら寄付金などで集めるしかありません。1回5000円の心理療法を毎週提供すると、一人に対して一年当たり20万円が必要です。日本は特定の機関に寄付をして社会的なインフラを整えようとする風土が乏しく、資金集めには苦慮しています。
 サポチルは資金提供機関であり、心理療法自体は契約機関に委託していますが、その心理療法は精神分析的心理療法に限定しています。来談理由は、不登校・暴力的な言動・抑うつなど様々ですが、支援対象は発達障害を抱える子どもか、虐待を受けた子ども(里親も含む)に限定しています。資金的な理由もありますが、精神分析的心理療法が特に貢献できる領域だからです。幼少期から他者との関係が乏しい、心地良くない、むしろ怖いと感じた体験により通常の発達から逸れていった子どもは、苦痛が日常的かつ長期にわたるため短期間で回復しろというのは酷な話です。精神分析的なプレイセラピーの技法は、彼らの声にならない声を聞き、見失われていた心を一緒に発見することを可能にするのです。

専門性を育て、社会に還元し、土地に根付き、社会を変える

 精神分析的心理療法を実践するには、高度な訓練が必要であるため、サポチルは人材育成にも力を入れ、同時に研修の提供により得た収益を心理療法支援に回しています。良いエビデンスの蓄積は社会が心理療法を認め、公的資金が投入される変化も期待されます。しかし、エビデンスには数が不可欠ですが、多くの子どもに心理療法を提供できるだけの財源がないのが現状です。
 また、どれだけ立派な仕組みでも、利用できる距離になければ意味がありません。京都・大阪で発足したサポチルは、2018年から関東でも活動をはじめ、さらに活動拠点を増やす計画があります。そのためには、スタッフ・寄付金・協力者などが大幅に不足しており、本稿を読んだ皆さんにぜひご協力いただければと思います。2014年には仮認定、2017年には認定NPO法人となり、寄付金が税金の控除を受けられるようになりました。詳細はhttps://sacp.jp/ をご覧ください。

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