立教大学での心理臨床家の養成の歴史

 立教大学は、50年近く、文学部心理教育学科の時代より、心理臨床家の養成を試行錯誤で行ってきた歴史があります。2002年、文学研究科心理学専攻臨床心理学コースが、臨床心理士養成の一種指定大学院となり、臨床心理士教育を始めました。そして、2006年に現代心理学研究科臨床心理学専攻に組織が変わりましたが、改めて一種指定大学院となり、臨床心理士養成を継続しています。
 2015年に公認心理師法が成立し、2017年に施行されると同時に、本大学院では公認心理師養成のカリキュラムを整備し、2018年度からは臨床心理士養成と並行して、公認心理師の養成も行っています。臨床心理士と公認心理師は、民間資格と国家資格などの違いがありますが、立教大学大学院では、同時に教育を行っているため、二つの資格をまとめて心理臨床家、と呼びたいと思います。

養成の柱──知的学習と体験学習

 立教大学大学院の心理臨床家の養成の二つの柱は、知的学習と体験学習です。学部教育において、心理学の専門教育、また、多様な教養教育を身につける中で、心理臨床家として現場で専門性をもって人と関わりたいと覚悟を決めた人が大学院に進学してきます。そこで、さらに専門的な知識を広げたり深めたりすることももちろん大切です。
 しかし、生身の人間である自分自身を道具として、人の一生に関わる仕事をすることができるためには、体験を通じて自分を知ること、現場を知ることが非常に大切です。厳しいことを言えば、頭で思い描いていたものとは違う現実を体験して、無理だと思う人は他の道に進むことを選択するしかないのです。無理だということを、仕事を始めて、援助を求めている人に対して迷惑をかけてから気づくのでは遅いでしょう。大学院は、責任をもって援助ができる心理臨床家を育て、送り出すという教育の責任を担っていると考えています。

知的学習

 知的学習として、大学院に入学するとまず学ぶのが心理臨床家としての倫理です。守秘義務、多重関係、他機関との連携など、大学院での学びの基礎としての倫理についての学習をします。修士論文の研究のために、心理臨床学的な研究の倫理についても学ぶと同時に、研究実施前には必ず倫理委員会の審査を通らなくてはならないという規則も設けられています。
 倫理と並行して、心理臨床における援助の理論と技法を様々な先生から学びます。もちろん全ての理論を学ぶことはできませんが、専任教員がカバーできない理論についてはゲスト・スピーカーなどの制度を利用して学びの機会を増やすようにしています。立教大学は、精神分析、応用行動分析、認知行動療法、家族療法、クライエント中心療法、イメージ療法など、多様な理論的背景の教員がお互いの専門性を尊重しつつ教育を行っているバランス感覚が特徴だと思います。

体験学習

 体験学習として、最初はロールプレイや応答構成のような、相互に心理臨床の場面を疑似的に体験しつつ自分の人とのかかわりの特徴を知り、また、関係性の中で生じることへの感受性を磨きます。
 少し基礎的な学習ができてくると、いよいよ実際の相談に来られた方を対象に学内の相談機関でプレイセラピーや面接などを、臨床心理士資格を持つ教員の指導のもとで行い、全員が参加する事例検討会(カンファレンス)で検討する機会を持ちます。カンファレンスは教員が一方的に指導するのではなく、学生どうしが率直な感想や質問を投げかけあい、あたたかい雰囲気で行われています。修士2年になると、学外実習として、医療機関を含む様々な現場に定期的に数か月通って、実習生として実際の患者さん、利用者さんと関わったり、現場のスタッフどうしの連携する様子を目の当たりにしたりする学習をします。学外実習では、守られた学内実習では体験できない、厳しい現実や自分の限界にぶつかって落ち込んだり悩んだりする学生さんも多く見られます。しかし、実習担当教員やゼミの指導教員に支えられて、数か月たつとめざましい成長がみられる人が多く、社会に出ていく準備の助走のいい機会になっています。
 中には、修士論文を書いて、さらに研究を続けるために博士後期課程に進学する人もいます。博士後期課程に進学しても、研究と臨床を共に続けていく人が圧倒的多数です。

立教大学の大学院の特徴

 立教大学の大学院の特徴は多様性があり、力関係が縦よりも横に分散した形の集団であるところだと思います。学生どうしも相互の個性を活かしあい、楽しい雰囲気の大学院です。言いたいことを言い合うので大変ですが、空気がよどんでいないところがいいところかな、と思っています。

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