はじめに
新型コロナウイルスによる感染症が中国の武漢で始まり、世界中に広まり多くの感染者や犠牲者を出し、混乱の中で2020年が終わろうとしています。自由な往来が困難になり、東京オリンピックも延期となっています。現在ワクチン開発が急ピッチで行われています。欧米ではワクチン接種が始まっているようです。日本も来年になれば接種が可能になりそうです。このような不自由な生活ももう少しかもしれません。学会もこの新型コロナウイルスに翻弄さ
れました。この一年を振り返りその
影響を紹介したいと思います。
第39回大会について
学術大会の開催は学会の大きな役割です。例年だと8000人近い会員が会場に集まり、講演や各種シンポジウム、口頭での事例発表やポスター発表が行われます。また会員による自主シンポジウムも本学会の特徴となっています。第39回大会も2020年の8月末に、横浜国立大学を担当校としてパシフィコ横浜で開催予定でしたが、残念ながらWeb大会となり、11月2日から11月26日の日程で開催されました。はじめてのWeb大会であり、大会委員会、実行委員会、大会事務局が協議を重ねようやく開催することができました。急遽Web大会に変更になったにもかかわらず、8000人を超える閲覧者がいたようで、このような形でも大会を開催できたことは幸いでした。しかし、対面による事例検討ができなかったことは、事例を重視する本学会とって身を切られるような思いでした。Webで事例発表を行うことも検討しましたが、セキュリティの問題から断念しました。また、事例を含まない研究発表については、Web上での掲示板による討論を試みました。対面での討論と比較し不自由な点もあったと思います。今後もWeb大会開催の可能性がありますので、今回の経験を活かし大幅な改善が必要と思われます。
Web大会には短所もありますが長所もあります。移動の必要性がありませんので、交通費や宿泊費がかかりません。また、アップされたプログラムであれば、自由な時間にアクセスし閲覧することができます。これまで同時間に開催のシンポジウムでは、どちらかを選択しなければなりませんでしたが、そのような心配の必要はなくなります。今回、新たにミニレクチャー・ミニワークショップを企画しました。Web大会の魅力を増すため、急遽理事の先生を中心に、現在ご活躍の先生方に依頼させていただきました。短時間の準備期間でしたがご協力いただき感謝申し上げます。このミニレクチャー・ミニワークショップも、「何度も繰り返して閲覧できたので良かった」という声を聞いています。臨場感や相互性という点では対面と比較し落ちるかもしれませんが、再現性という点では優れていると思います。子育て中の会員や介護を要する家族を持つ会員にとっては、Web大会は参加しやすい学会の形式かもしれません。
それでも対面大会を
今回は事例研究のWebでの発表を断念しました。情報漏洩のリスクを否定できないからです。しかしリモート授業やリモート診療が可能になってきています。会員の認証の仕方、情報のアップや動画の管理の方法が改善されれば、Webでの事例検討もできるようになるかもしれません。そうすると会場での大会開催は今後必要なくなるのでしょうか。たしかにWeb大会は便利な点はあります。しかし、年に一度会場に集まり、事例や研究成果を発表したり議論したりして、終われば夜の街に繰り出していく楽しみは、Web大会では味わえません。交流会を楽しみにしている会員もいます。旧知の仲間との再会、新しい仲間との出会い、これは対面での大会でしか得られないと思います。しかし、会場まで来ることのできない会員への配慮も必要なことが、今回のWeb大会を経験して認識されました。新型コロナウイルスが終息した後では、対面による会場開催の大会と、その一部を録画したWeb大会の二本立てになるかもしれません。より多くの会員に満足していただき、心理臨床学の発展と実践に寄与することが、本学会の使命であり社会からの要請でもあるからです。そうなると今の事務局体制であきらかに不十分です。スタッフの拡充が求められるでしょう。
この一年を振り返って
緊急事態宣言が、4月7日に東京など7都府県に出され、4月16日には対象が全国に拡大されました。当初、パシフィコ横浜での開催を予定していましたが、急遽、理事会、大会委員会などで検討した結果、担当校の一部の企画をのぞき、Web大会として開催されることが決定しました。そのため会員への連絡やWeb大会への切り替えで、私だけでなく事務局は大忙しの一年となりました。そして私は東京の学会事務局に行くことはほとんどなくなりました。その代わりWebでの会議が増えました。事務局から日程調整のメールが届きます。会議の候補日に〇×をつけて返信すると、「X月Y日夜7時から二時間会議です」と連絡が入ります。これまでなら「行けません」とか「都合がつきません」とか伝えると、会議を欠席することができましたが、Web会議だとかなり遅い時間帯まで候補にあがり、欠席できなくなってしまうのです。事務局員も必ず出席するので、理事や委員ばかりでなくかなりオーバーワークになっているのではと心配しています。Web会議は緊急に開催でき、移動の費用も時間も節約できるので便利です。しかしオーバーワークになりがちなこと以外に、何か足りないような気がするのです。それが何なのか言語化できないのですが。Web大会にも通じる臨場感、空気感、雰囲気なのでしょうか。新型コロナウイルスが終息した後は、すべてWeb会議にしてしまうのではなく、時には対面での会議を開催した方が、学会運営についてのより戧造的アイデアや方針が生まれてくるのではと思うのは私だけでしょうか。
おわりに
会員の皆さんは、医療、教育、福祉や産業などのさまざまな現場で、新型コロナウイルスへの感染に配慮しながら実務にあたられていることでしょう。通常の業務が制限されたり、新たな対応が要求されたりしていると思います。このような状況下での知識や経験の蓄積も重要なリソースとなります。そして本学会で共有し、社会に還元していくことを希望いたします。また一日も早い新型コロナウイルスの終息を願っています。