LINEが返ってこない!

 既読スルーという言葉がはやったのはいつの頃だったでしょう。つい数年前のことだったと思います。でもいまやそれも死語になりつつあるのかもしれません。
 思春期の子どもたちと面接をしていると、「LINEは重い」と聞きます。だからツイッターで、誰に宛てるとでもなくつぶやく。反応してくれなくて当たり前、してくれたらラッキー、そういう気持ちでいた方が気楽だから、と。この方法を使っていると、「対人」の部分が薄くなるので「対人不安」を感じなくて済むかもしれません。ひとつの「対人不安」への対処法と言えるでしょう。
 でもここでは、それでは満足できなくて、もうちょっと「対人」を求めて苦しんでいる人へ向けて書いてみようと思います。
 既読がついているのに、返事が来ない。そりゃさすがに五分で返せとは思わないけど、もう三時間経ってる。どうしよう、何か気を悪くするようなことを言ってしまったのだろうか。何か気持ち悪がられるようなことをしてしまったのかもしれない。スクショを他の人に転送されて、「マジウザいよね」とか言われているのかもしれない。ああ、もう明日学校に行きたくないー。
 私が「対人不安」というお題からイメージしたのはこんな場面でした。

「みんなそんなにあなたのこと気
にしてないよ」

 こうした不安を相談したら、必ず一度はこう言われたことがあるのではないでしょうか。それはたしかに正しいのだけど、でも正しいからといって不安が収まるわけじゃないーー。でも、ちょっと待て。みんなが気にしていないなら、気にしているのは誰なのか?

それ、投影かも?

 心理学に「投影」という用語があります。自分の気持ちを人の気持ちのように感じてしまうことです。こう書くと、自分と他人の区別がついていないような人が使うよくないやり方のように聞こえるかもしれませんが、この方法は悪いことばかりではありません。自分の気持ちと人の気持ちが重なるように思うからこそ、「共感」といった現象が起こるからです。対人不安の強い人は、この方法を使いがちだと言われますが、だからこそ、周囲からは「気の利くいい人」と思われていることがよくあります。
 ここでもやっぱり「みんながどう思っているか」と「自分がどう思っているか」にギャップがあるようです。そう、気にしているのは、みんなではなく、あなた自身なのかもしれないのです。
 LINEの例では、相手が自分のことを「キモイ」とか「ウザイ」とか思っているだろうと思うのは、実は自分自身が自分のことを「キモイ」「ウザイ」と思っていて、それを「投影」しているからかもしれない、というわけですね。


 よく「自分がされて嫌なことはしないように」と言われてきませんでしたか?私はそれはあまりお勧めしません。「自分を基準にしないで、自分と相手が別の人であることを意識した上で、相手がどう考えているかを考えてみよう」。これが、「対人不安」の強い人への私のアドバイスです。
 こんな偉そうなことを言うと、「そんなこと言ったって、現実に嫌われてるときはどうしろって言うんだ!」という声が私の脳内に響きます。すると、はいすみません、もちろんすべてをこの理屈で説明できるわけではないです、ごめんなさい・・・という気になるわけですが、こうやって「こう思われているに違いない」となってしまうことこそ「投影」ですね。誰でもよく知らない相手には「投影」しがちになるのです。そこでいったん冷静になって「これは投影かも」と思えると、ちょっと楽になるのではないでしょうか。

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