読者の皆さんもご存じのように、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、この3年間、私たちがこれまで当たり前のように参加していた多くの集いの場が奪われてきました。失ってみて初めて、それがどれだけ私たちにとって大切なものだったか、生活のあらゆる場で気づかされました。

 本誌「心理臨床の広場」の発行母体となる、日本心理臨床学会も、心理臨床の実践をじっくりと検討し、学術的な成果を共有するために、会員以外には原則非公開となる対面方式での学術大会を毎年開催してきましたが、コロナ禍の2年間は、Web方式の開催を余儀なくされました。その後、昨年の第41回大会において、通常より規模は小さいながらも、ようやく対面方式での開催を復活させることができたところです。

  コロナ禍4年目となる第42回大会は、2023年9月1日から3日間、パシフィコ横浜で開催される予定で、現在大会実行委員を中心に準備が進められています。どの様な大会になるのか、これまでとどの様に異なるのか、非会員の皆様とも共有可能な範囲で、できる限りお伝えしたいと思います。

 第42回大会のメインテーマは、「心理臨床学の新たな多様性を拓く」となっています。

 この3年間、新型コロナウイルスは、いまだ収束に至らぬまま、大規模な自然災害、新たな紛争、戦争など、私たちを取り巻く世界の環境が、急激にかつ大きく変化しています。こうした中で、ますます多様化し、複雑化していく人々の心の問題に真摯に向き合い、心理臨床の実践と学びを深化、発展させることを通して、社会に対する本学会の責務を果たしていこうとするものです。

 前回の第41回大会から、2年続いたWeb方式の大会運営で得た新たな経験知を理事会主催として検討し、オンラインのメリットを生かしたハイブリッド方式を採用しました。会員の参集規模は、従来よりも小さくなりましたが、本学会の学術的成果の根幹となる事例研究の発表を再開させることができました。

 本大会では、基本的に前期理事会の方針を継承し、発表内容をより充実させていくことを目指します。実際に2つの形式で行われるコンテンツはコロナ禍以前の大会の内容よりも数多く、運営予算も学術大会を2つ行うのと等しいほどになります。

 これまで開催のプログラムが実行できず、縮小傾向にあったところから、新たな開催方式によって、大会のあり方にも大きな転換が生じることとなります。この意味でも、理事会主催による第42回大会は、本会として新たなチャレンジであり、ここで見いだされる様々な課題を整理して検討し、今後の50回大会へ向けて、バトンを繫ぎたいと思っています。

大会の開催形式

 第42回大会は、対面大会の部とWeb大会の部から構成され、会期は次の2期間です。第41回大会と異なり、対面大会後にWeb大会を開催いたします。

対 面 大 会:2023年9月1日(金)~3日(日)

会場:パシフィコ横浜

Web大会:2023年9月22日(金)~10月12日(木)

 Web大会では、様々なコンテンツがオンデマンド配信されます。また、大会発表等と並行して、自主シンポジウムもこの期間にライブで開催されることになっています。

第42回大会の主な企画内容

①対面大会

 口頭発表:会員の皆様の発表については、従来行われてきた形式全てが可能となります。特に「事例研究」「臨床教育」の発表は、対面大会の要となるものです。口頭による発表後に指定討論者のコメントがなされ、会場参加者とライブで討議を深めます。発表数も会場、時間等を最大限確保する予定です。この他にも、理論・調査研究の口頭発表も予定されています。

 ポスター研究発表:発表内容をポスターにして掲示し、参加者と直接コミュニケーションを取りながら、研究や実践について情報を交換したり、新たな気づきや出会いが生まれる貴重な機会でもあります。この企画は、発表者もさることながら、参加者にとっても、関心のある研究テーマについて、発表者と実際に詳しい話ができるので、参加のモチベーションが湧く楽しみな企画となっています。事例研究と理論・調査研究の双方が予定されています。

 各種シンポジウム・特別講演:大会テーマを掲げたメインシンポジウムの他、心理臨床の多様性を拓く興味深いテーマでシンポジウムが企画されています。常設委員会企画の他、会員から公募したシンポジウムも含め、10数本が並びます。

 また、特別講演、学会奨励賞受賞講演が企画されています。この受賞講演はWeb大会でも配信予定です。

②Web大会

 海外研究者の招待講演、常設委員会企画、会員から公募したシンポジウムが、対面大会企画とほぼ同じボリュームでWeb大会独自のコンテンツとして用意されています。

 また、対面方式で発表されたポスター発表(理論・調査研究)並びに学会奨励賞受賞講演の再掲が予定されています。今期業務執行理事会からのメッセージ動画も準備中です。

 さらに、この間、会員が主体的に運営する自主シンポジウムが、ライブの双方向型で毎日のように企画されていますので、3日間の対面型集会と合わせると、これまでになく充実した学術的な新しい体験が可能となるでしょう。

 今後も戧意工夫をしながら、全国、あるいは海外におられる多くの会員の皆様が、様々な形で学術的な集会に参加できる機会を増やしていきたいと考えています。

一般向け公開動画の配信

 Web大会では、非会員である一般の方々にもご覧いただける動画を公開いたします。本誌の読者の皆様なら、どなたでもご覧になれます。

 高校生対象の企画、大学学部生対象の企画、大学院生や修了生対象の企画など、心理臨床学に関心を持ってくださる様々な年代、ニーズを想定した有意義な情報をお届けするための動画となっています。

 心理臨床学及び実践の魅力や、専門職としての仕事の紹介、あるいは、様々な研究領域についてわかりやすく紹介することを目的としたコンテンツとなります。本誌の編集を担当する広報委員会と大会委員会の共同企画として準備中です。

 なお、学会のホームページ(一般社団法人日本心理臨床学会 https:/www.ajcp.info/)でも、これまで作成した動画を視聴することができますので是非ご覧ください。また、本誌のバックナンバーも、今期から一部が掲載されるようになりました。こちらも併せてご覧ください。

 この原稿を執筆している現在も、9月の社会的状況がどの様になるのか、明確に把握することは困難です。ですから、対面開催の実現が絶対とは言えない、苦しい現状には変わりありません。

 けれども、会員の皆様の、貴重な実践経験をもとにした研究報告が、一つでも多く会員に届き、それぞれの心理臨床、心理臨床学の発展につながる機会が生まれることを願い、大会実行委員、理事一同力を尽くして準備を進めているところです。

 再び横浜の地で、多くの会員の皆様と集い、語り合うことのできる日を心待ちにしています。

 

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