編集後記

 本誌は心理臨床学会の広報誌である。本号がみなさまのお手元に届くころには、ついに23号以降のネット公開が実現する(https://ajcp.media/)。直接その過程に関わったわけではないのだが、この数年本誌の編集委員を務めていた私にとってもそれは宿願であったので、たいへん嬉しい。これにより、本誌はより多くの方の目に触れるようになることだろう。
 私は以前から、広報をするならとにかくネットを使わなければならないと思っていた。このご時世、ネットはもはや生活のインフラである。その思いは本号にも反映されている。特集1の「推し活」も、特集2の「無敵の人」も、いずれもネットと密接に結びついたものである。
 本号で井出が指摘しているように、私たち心理臨床家がネットに安易に飛びつくことには危険もある。だが今回は、それを承知の上でネットに近接した特集を組んだ。臨床をしていれば、学問的に定説はなくとも、考えうる限りの最善策をその場で選択し、対応せねばならないことはいくらでもあるからだ。本号の特集が、読者の皆様、そして心理臨床家の日々の臨床に役立てば幸いである。巻頭対談は、特集1の「推し活」にちなんで、K‐POP評論家の古家正亨さんにお願いした。古家さん目当てに本号を手に取ってくれる方も多いことと思う。内容は、芸能文化にとどまらず、異文化をいかにして理解するかといったことにまでわたっている。古家さんも指摘しているように、私たち世代が受けた教育では、本来は非常に重要であるはずの近現代史は手薄なものになってしまっている。本対談は、そうした事情に若い世代が関心を持つ入口となるのではないか、との期待を抱くものであった。対談を引き受けてくださった古家さんには感謝したい。
 「当事者に役立つ心理教育」では「対象喪失」を扱った。ふつうのことばで言えば、「大事なものを失うこと」である。私たちは、生きていれば、不可避に何かしらの大事なものを失う。だからこれについては、私たち全員が「当事者」であると言える。そのなかでも、本号ではいくらか細分化した形で「対象喪失」を扱った。「喪の作業」と言われる喪失を悼むプロセスを十全に体験するには、他者が必要である。もし今現在、大切なものを失って苦しみの渦中にいる方があれば、直接的にその助けになればこれほど嬉しいことはないし、記事をきっかけに誰かを頼ってみようと思うきっかけとなれば、それもまた嬉しいことである。
 本誌が読者のみなさんの精神的健康を促進するものとなるよう、今後も力を尽くしたいと思う。

(広報委員 山崎孝明)

事務局だより

 新型コロナウイルス感染症予防の対策で、本学会も会議や学術大会の持ち方など、運営のあり方に大きな変革を余儀なくされ、4年目を迎えました。
 第5期業務執行理事会は、2020年4月に最初の緊急事態宣言によって、あらゆる業務が混乱し、多くの会議が停止したまま、第6期業務執行理事会へバトンを送りました。第6期業務執行理事会は、直前に迫る学術大会をWeb方式へと切り替え、その後もたびたびWeb方式の会議を開きながら、2年間一度も対面会議が出来ぬままに終わりました。そして現在の第7期業務執行理事会が、昨年6月に発足しています。
 この間に、学会の運営については、あらゆる面で試行錯誤しながら、業務を進めてきました。事務局は、リモートワークを取り入れ、Web方式の会議にも柔軟に対応できるようになりました。これによって各委員会の活動が維持され、学会大会、研修会の開催、学会の機関誌の発行なども支障なく行うことができました。
 しかしながら、これまで週末の日中が多かった対面方式の会議から、Web方式の会議に替わると、連日夜間帯に集中することが多くなり、事務局の運営上は負担の大きいところでもあります。このあたりは、担当理事としても、持続可能なバランスを点検しながら進めていく必要があると痛感しています。
 Web方式による国際的な学術研修会、新たな論文投稿システムの展開、論文執筆ガイドの改訂、自殺対策専門委員会の設立、対面大会とWeb大会の2本立てによる学術大会の拡充、学会主催研修会の開催、広報誌のホームページでの公開など、コロナ渦中にありながら、各委員会活動はむしろ活発化し、しっかりと成果が生み出されているように思います。
 これらの成果は、学会運営上の多くの困難に関して、会員の皆様から常にご理解とご協力を賜ったからこそ実現できたものであり、事務局運営に携わった一人として、心から御礼申し上げます。

(財務担当理事 青木紀久代)

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