私は、レズビアンなどセクシュアルマイノリティ女性に向けたNPOで、相談や学び合いの機会をつくり、当事者の声を聴き社会に届けることで、社会を変える活動をしています。私自身もレズビアンで、当事者共通の経験をふまえ、セクシュアルアイデンティティを形成し、セクシュアルマイノリティとして人生を生きる過程を支援してきました。本特集1の「様々な家族のカタチ」のトピック全てに同性パートナーと生きるひとは含まれますが、本稿は所謂同性カップルふたりを想定して書き進めます。

同性パートナーの実態

 最近では、配偶者や恋人の性別にニュートラルな表現として「パートナー」という言葉を使うひとも出てきました。特にパートナーが同性であるとき、「同性パートナー」と言います。同性愛者を想像する方もいるでしょうが、個々のアイデンティティは、同性愛者(レズビアンやゲイ)とは限りません。それについては、本号の「当事者に役立つ心理教育」のコーナーの記事も参照してください。パートナーが同性であること以外、異性のカップルと変わらず共同生活を営み、悲喜こもごもの人生を送っています。
 では、同性パートナーと生きるひとはどのくらいいるのでしょうか。異性間の有配偶者数が事実婚を含め国勢調査で捕捉されるのに対し、同性カップルは、同居し生計を共にしている「配偶者」と回答しても、「他の親族」扱いに修正され、国は把握していません。また、差別や偏見を恐れて回答できない当事者も多く、実態把握を難しくしています。性的マイノリティの2.7%が同性パートナーと同居しているという調査(2021、埼玉県)を参考にすると、少なくても確かに存在するのです。

パートナーシップ制度は結婚にあらず

 自治体によるパートナーシップ制度ができ8年、各地で導入が進んでいます。しかし、最初に制度ができた世田谷区でも、それを知らない方がまだ5割余りもいます(2023、世田谷区民意識調査)。また「パートナーシップ制度を利用したら、結婚おめでとうと言われて複雑な気持ちになった」と、当事者が述べるような理解されにくい状況もあります。
 というのも、日本では戸籍上同性どうしは結婚できません。パートナーシップ制度は自治体が同性カップルを婚姻に相当する関係として宣誓を受け付けたり、証明するにとどまり、結婚とは別のものです。それにも関わらず、公的に存在を認められるだけでも、当事者にとっては嬉しく勇気づけられるものです。
 また、パートナーシップ制度には法的効力はないため、利用しない当事者も少なくありません。役所の手続きはカミングアウトをするのと同じで、偏見を向けられるリスクを冒してまでしたくないというひともいます。
 法的に異性どうしなら、今日出会ってもすぐ結婚ができ、意識しなくても婚姻届1枚でお互いの生活も人生も守られます。一方、同性パートナーたちは、何十年一緒でも、共に子育てをしても、他人です。何の保障もないパートナーとの人生には常に不安がつきまとうのです。

社会のしくみがもたらす心理的影響

 シスジェンダーの異性愛者中心に作られた社会は、同性パートナーと生きるひとを疎外し、スティグマを与えています。セクシュアルマイノリティは、この社会の中で成長してくる過程で、多くの傷つきやストレスを経験します。それはときに精神的健康を害することもあります。
 その後、同性パートナーと共同生活を送るひともいるでしょう。しかし、関係性をオープンにできないひとも少なくありません。従姉妹や友人と偽って同居したり、別に部屋を借りて同居を隠すこともあります。自らを守るために、そうせざるを得ないのです。そして、親族やコミュニティから距離をとるひともいます。
 平穏で、若く健康なときは、まだ何とかなるかもしれません。しかし、災害時、病や老い、離死別など人生の苦難に直面したときこそ、社会の現実が迫ってきます。ふたりの関係性の開示、証明が求められ、ともすれば関係は無にされます。肝心なときに同性パートナーを支え、傍らにいることすらできないこともあるのです。
 助けが必要なときに辛い気持ちを話せる場がなく、問題がこじれたり、特に女性は経済的不安を抱えやすいといったことも起きます。私たちNPOに寄せられるこのような声からは、当事者の生き辛さや苦悩の多くが、社会のしくみゆえの差別や偏見、カミングアウトの困難さからきていることが伺えます。

多様なかぞくが当たり前の社会に

 同性カップルが法的に結婚できることに賛成、という市民は増えており、調査によっては8割を超えるとされます。若い世代を中心に意識は変わりつつあるようです。
 当事者もまた、同性パートナーとの人生に変化を起こしています。親族中に自分たちのことを開示し、ふたりで子どもを産み育て、職場に対し同性パートナーをもつことをふまえた制度にするよう働きかけるなど、挑戦するひともいます。自分の描く生き方を実現するために、ロールモデルを探し、たくさん勉強し、お金もかけて人生を切り開いています。また、戸籍上同性どうしの結婚を求める裁判(結婚の自由をすべてのひとに訴訟)も全国で審理中です。
 同性パートナーと生きるひとたちの心理・社会的な苦悩の多くは、異性間と平等に結婚する選択肢がもてるようになれば、時間が経つにつれ変わっていくことでしょう。その日がくるまで、私たち市民ができることは何でしょうか。
 あなたの隣にいるかもしれない当事者の語りを、ある時は友人、近隣の人、援助者として、その声にも耳を澄まし、多数派の常識ではなく想像力をもって受けとめてみることは大きな一歩です。多様なかぞくが当たり前にいる社会を、市民が先に作っていきませんか。
 私は、本稿で述べたような社会構造、社会の影響をふまえて当事者の悩みに寄り添い、個々人の行動を支えていけたら、と思います。マイノリティの存在に眼差す、多様性が前提の社会に変わるよう微力ながら尽力していきます。ぜひご一緒に!

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