はじめに

 「施設養護」と聞いて、人はどういったものをイメージするでしょうか。「ドラマや映画、アニメに出てくる寄宿学校みたいなところで大勢の子ども達が賑やかに生活している」といったようなイメージを持っておられる人が多いのではないでしょうか。確かに、まだそうしたスタイルの施設もありますが、現状の施設養護は厚生労働省の示す2016年の児童福祉法改正の理念を具体化した「新しい社会的養育ビジョン」を踏まえ、少しずつ変化してきています。
 この特集1ではテーマを「様々な家族のカタチ」と銘打っています。そして「血のつながり」や「法的なつながり」あるいは「当事者の主体的選択によるつながり」といった多様「家族」のかたちが描かれています。ですが、施設養護はそのいずれとも異なります。施設で暮らす子どもたちと、そこで出会う大人に血のつながりや法的な手続きを経たつながりはありません。また一部の例を除き、子どもたちは自ら望んで施設で養護されることを選択したわけではありません。施設養護とは「保護者の適切な養育を受けられない子どもを、公的責任で社会的に保護養育するとともに、養育に困難を抱える家庭への支援を行うもの」であると定義されており、社会的養護におけるひとつの養育のあり方です。そして、施設養護で育つ子どもには、養育者による虐待等によって保護され、心身に深いダメージを負っているケースが数多く存在します。「家族」を目指すのではなく「家庭的」であることを目標とする、それが施設養護です。

施設養護のこれまでとこれから

 施設養護を行う児童福祉施設のうち、設置数が国内に約600カ所ある児童養護施設というものがあります。かつては「孤児院」と呼ばれましたが、現在は養育者がいながら離れて暮らすケースがほとんどです。ドラマや映画の舞台になることも多く、2014年に芦田愛菜さん主演でドラマ化され物議を醸した「明日、ママがいない」や2016年から少年ジャンプに掲載された「約束のネバーランド」のほか数多くの作品で知られています。児童養護施設とは「保護者のない児童、虐待されている児童など、環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設(児童福祉法第41条)」と定義されています。これに関連して全国児童養護施設協議会はこれからの施設養護について「全員が1つの建物のなかで生活を送るスタイル(大舎制)がまだ多くありますが、1つの建物のなかでも少人数のグループにわかれ(小規模グループケア)、より家庭に近いスタイルで生活をする施設や、建物の構造自体が小グループで生活する『小舎制』の施設が増えてきています。また、近年は施設から離れ地域のなかで生活する地域小規模児童養護施設(グループホーム)など、家庭に近い生活環境により生活する形が推進されています」と述べています。
 このように施設養護は、従来と比較してより家庭的であることが求められるようになりました。それに伴い、出来る限り建物は「家」に近い小舎構造へ、メンバー数は「家族」に近い少人数へとそれぞれ寄せていき、より「良好な家庭的環境」を目指すようにと、子ども家庭庁も示唆しています(図1)。

図1:社会的養育の推進に向けて(子ども家庭庁, 2023を一部加筆) 枠内が施設養護

施設養護経験者のつぶやき

 施設に入所してから数年のあいだ大舎制の構造に育ち、その後の退所までの数年を地域小規模型施設で暮らした入所児童Aは、「やっぱり小規模に移って、初めは慣れなかったけど、人が少なくて静かだし…ご飯を食べる時間帯とかも前みたいに絶対に全員そろっていただきますって感じじゃなくて、柔軟っていうか。この方が家っぽいっていうか。献立も前もって決まってるんじゃなくってその日の冷蔵庫にあるもので作るとか、献立表とかなくってさ。この方がやっぱええなって思ってしまう」と話してくれました。そして、施設養護を3歳から18歳まで経験して社会へ巣立ったBは「小規模化とか、こういう制度作った人ってさ。きっと小さいころはお父さん普通に働いてて、お母さん主婦してて、大きくなって当たり前に大学出たって感じなんちゃう? 『家』はこういうもの、『家族』はこういうものってイメージがなんだかすごいっていうか。実際に施設で生活してる俺らからしたらさぁ、そこじゃないやろって感じするねんなぁ…形じゃないっていうか」。物心ついた頃には施設での暮らしが「家」だったBのその言葉に、私は何とも言えない説得力のようなものを感じました。構造やメンバー数ももちろん重要ですが、本当の家族ではないにせよどこかで「つながり」のようなものを感じられるということが、施設養護の提供すべき、子どもにとって最善の利益なのかもしれません。

おわりに

 「うちら家族ちゃうやん! 居たくて一緒にいるわけちゃうやんけ!!」。施設養護下の最低限度のルールを守れず、指導を受けることが続いたある日、入所児童Cが逆ギレして暴れ、職員に叫びました。養育者から深刻なネグレクトを受けたCからは、周囲の大人はもちろん、この世なんか信じてやるものか、という固い決意が私には感じられました。被虐待等によるトラウマに苦しみ、安全や安心を感じることの難しい子ども達の心身を適切にケアすることは、施設養護の担う役割であり、関わる大人には多岐にわたる専門性が期待されます。冒頭の話に戻りますが、血のつながりや法的なつながりを持たず、主体的に選択をしたわけでもないけれど支援者の大人と共に住み暮らすのが施設養護です。そこで何らかのつながりを感じてもらえるように心理的な視点から働きかけることが、施設に関わる心理臨床の専門家に求められます。そして関わる大人は家族ではありませんが、子ども達にとってよきロールモデルであることが、施設養護に託された可能性なのかもしれません。

●参考文献
浅井春夫・黒田邦夫(2018)『〈施設養護か里親制度か〉の対立軸を超えて——「新しい社会的養育ビジョン」とこれからの社会的養護を展望する』明石書店
子ども家庭庁支援局子ども家庭福祉課(2023)「社会的養育の推進に向けて」
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/8aba23f3-abb8-4f95-8202-f0fd487fbe16/14ba1bcd/20230401_policies_shakaiteki-yougo_76.pdf( 最終閲覧日2023/12/07)

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