愛媛大学における心理臨床家の養成は、歴史と文化の町、愛媛県松山市において行っています。大学院教育学研究科心理発達臨床専攻の一学年の定員は10名であり、二学年で20名です。教員は特定教員2名を含む9名で組織しています。

大学院の特徴

 愛媛大学は大学院に限って心理臨床家を養成しているところが特徴です(学部は教育学部であるため、教員養成に特化しています)。学部での養成をしていないこともあって学内進学者は少なく、愛媛県出身者で県外の大学へ進学した方が、大学院修了後の県内での就職を視野に入れ、大学院から入学される場合が多い傾向にあります。その他、本学の養成プログラムに関心を持って下さった他県出身者や社会人などの入学もあります。

沿革

 愛媛大学での心理臨床家養成の中核を担う、学内実習施設である心理臨床相談室の沿革は、1998年に発足した教育学部附属教育実践総合センターに遡ります。センター発足と同時に専任教員による相談活動を始め、2002年2月には改修工事によって心理教育相談室が完成しました。また、大学院教育は1999年度から始まり、当初、大学院教育学研究科学校教育専攻臨床心理学分野を開設しました。2000年度からは日本臨床心理士資格認定協会の大学院指定制度二種の指定認定を受け、2004年度からは学校臨床心理専攻に改組をして第一種の指定認定を受けました。また、2017年に公認心理師法が施行される中、2020年度には心理発達臨床専攻に改組(心理教育相談室は心理臨床相談室に改組)し、大学院での公認心理師養成も始めることになりました。

心理臨床家の養成

 愛媛大学での心理臨床家の養成は講義・演習・実習を中心としてカリキュラムが組まれています。本稿では心理臨床相談室での学内実習を中心にご紹介します。
 本学大学院に入学した一回生(M1)は、前学期から心理臨床家の基礎的訓練にあたる講義・演習・実習科目を多く履修しますが、とりわけM1前学期の実習では心理アセスメントの基礎を学んでいきます。すなわち、心理面接・心理検査を通してクライエントに対する心理学的処遇を探索するための基礎訓練が始まります。テキストを通して基礎知識を習得し、映像視聴や大学院生同士のロールプレイを通して基本的な応答訓練を実施します。実習後半では、実際の心理面接を想定した試行カウンセリングを5回実施します。クライエント役は大学院生自ら学部学生に協力依頼します。カウンセラー役の院生は逐語記録を作成し、指導教員や同級生と詳細なケース検討を行います。こうした基礎訓練を通して、自身の応答の癖・面接全体の流れ・クライエント理解の質等を吟味し、応答の原則と留意点を学んでいきます。試行カウンセリングを無事に終えたM1は、心理臨床相談室の実際のケースに触れる機会を得ます。まず始めに、臨床心理士・公認心理師資格を持つ指導教員が担当する受理面接に陪席し、面接記録を担当しながら本番の心理面接を体験していきます。また、同じ頃、M1は自身の学外スーパーバイザー(臨床面接指導員)を決めて、実際のケース担当に備えます。なお、学内教員は講義・演習・実習を通して臨床指導を行いますが、教員・学生間の多重役割をできるだけ避けるために、本格的なケース担当訓練では、学外スーパーバイザーによるスーパービジョン指導に力を入れています。
 ケースカンファレンス(相談室事例検討会議)は、学内教員がオリエンテーション別に二手に分かれて実施し、毎週開催しています。M2・M1の学生は随時担当ケースの発表を行い、学内教員・相談室研究員を含めた相談室スタッフ間で詳細な検討を行います。また、学内教員も相談室スタッフとして担当ケースの発表を行い、一面接者としての視点を学生に提供します。相談室ケースのマネージメント、会の司会進行など、ケースカンファレンスは学生主体で実施しており、学生は能動的・主体的な参加が求められます。できるだけ相談室運営へ学生を関与させることで、修了後にさまざまな領域で心理臨床家として活躍するであろう学生に、組織内の働きを学んでもらいたい意図があります。
 M2は、心理臨床家養成トレーニングの仕上げとして、修士論文を提出後、相談室紀要への事例論文の執筆が課されています。修士課程二年間という限られた期間に、修士論文・事例論文二本を書き上げるにはかなりの負担が強いられます。毎年、ひとりひとりの学生がひたむきに臨床訓練に取り組み、自身の課題を乗り越え巣立っていく姿を目にするたびに、頼もしく思います。

新しい歴史

 愛媛大学での心理臨床家の養成の歴史は比較的新しく、これから積み上げていくべきものが多くあります。地域に貢献する心理臨床活動を日々重ね、心理臨床家を養成し続けていくことが、これからの愛媛大学の新しい歴史になっていくのだろうと思います。地域を見わたすと、心理臨床場面で愛媛大学大学院修了生が活躍する場が着実に増えており、こころからうれしく感じています。

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