編集後記

 今号は、特集1が「音楽とこころ」、特集2が「恋愛」をテーマにしました。前号は最新のトピックを意識したものが多かったので、今号では、普遍的なもの、情緒的なものをテーマにしました。こころのソフト面、心理臨床のアートとしての側面に焦点を当てたとも言えましょう。対談の奈良美智さんから、一貫した流れができたと思います。
 今号作成中の六月に行われた心理臨床学会では、広報委員会の企画として「心理臨床という『しごと』」というシンポジウムを一般公開で行いました。当日は予想以上にたくさんの参加者が集まり、活発な議論が行われました。私の印象ですが、シンポジウムで感じたのは、心理臨床は、わかりやすさ、明確さ、身近さが求められる一方で怪しさ、曖昧さ、わからなさ、も同時に
はらんでいるものでもあるということです。アートとサイエンス、光と影、エビデンスとナラティブ、人の存在に向き合う仕事だから当たり前のことなのでしょうが、改めてその多様性と逆説性の歴史を感じました。先達たちが、社会のニーズを見出し、その複雑さの中で心理の仕事を定着させてきた過程は感慨深いものでした。一方で、社会における心理職に対してのイメージや描かれ方も、現代になると、より身近でより現実的な眼差しが向けられるようになっているという変化も感じました。公認心理師の時代、ますます社会において心理臨床がどのような「仕事」なのか私たちが説明できるようになり、それを発信し、さらに今後は開拓、創造もしていかなければならない、と決意を新たにするシンポジウムとなりました。
 編集委員会ではこのような視点に立ち、さまざまな意見を交わして意欲的に広場の作成に取り組んでいます。たくさんの読者の方に目を通していただけるよう、時代に合った興味をもてるテーマ、内容になるよう委員一同取り組んでいきます。ご意見などございましたらお気軽に編集委員までご連絡ください。
(編集委員 岩倉 拓)

事務局だより

 本学会は、「心理臨床の業務にたずさわるもの相互の連携協力によって心理臨床科学の進歩と、会員の資質向上、身分の安定をはかる」ことを目的として1982年(昭和57年)に創設されました。そして1988年(昭和63年)に、関連する学会の協賛を得て日本臨床心理士資格認定協会が発足し、「臨床心理士」という資格が誕生いたしました。そして、昨年(2018年)、第一回の公認心理師試験が実施され、今年に入ってから登録証が交付され始め、ようやく心理専門職の国資格が誕生しました。「臨床心理士」と「公認心理師」の両資格とも、多くの関係者の多大なご尽力と多くの会員の方々のこれまでの着実な実践の積み重ねの上に成り立ったものと思っております。両資格については、さまざまな議論がなされていますが、そのような議論があるということは、どちらも現段階では、必ずしも全員が納得できるような理想的な資格ではないとも理解できます。それゆえ、どちらの資格が良いとかという議論ではなく、本学会の設立時の目的やその後の法人としての定款にも記されているように、「心理臨床の業務に携わるものの相互の協力によって」、これまで培われてきた心理臨床の実績や知見がきちんと反映されるような専門資格になるように、学会として、一丸となって取り組んでいくことが必要であると思われました。


 そこで、大切になることは、研究や実践の新しい知見を産出し社会的に認めてもらえるような専門性を構築していく次世代の担い手である研究者や実践家を数多く輩出していくことであると思います。今回、大学院生の優遇措置(入会金免除と初年度会費減額)を実施できるようになったことは、まさに、この次世代を担う若手に本学会で活躍していただきたいという願いも込められています。本学会の若手の会も動き始めて三年目になり、新しい活動もいろいろ起こりつつあります。時代の変化に対応しながら、本学会がその役割を果たせるように運営していきたいと思います。ご協力いただければと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
(財務担当常任理事 杉江 征)

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