私は心理士(カウンセラー)として警察で働いています。都道府県警察によって多少異なりますが、警察の心理士は、犯罪被害者支援、少年相談、警察職員の健康管理など、様々な業務を担当しています。ここでは私が携わった経験のある犯罪被害者支援と警察職員への支援について紹介したいと思います。
犯罪被害者への支援
私たちは、日常生活を送る中で、犯罪被害に遭うことは予想していません。心の準備のないところに突然起こる犯罪被害は、被害者やその家族(以下、「被害者」と記します)に大きな精神的ショックを与えます。そのため、混乱し不安な気持ちになることも少なくありません。被害者は、そのような状態の中、被害の届出や事情聴取等の捜査活動への協力といった捜査機関とのやりとり、医療機関の受診など、様々なことに対応していかなければなりません。被害者と被害直後から密接に関わる警察では、捜査活動と並行して、病院等への送迎や付添い、医療費等の公費負担制度の運用、再被害防止措置といった様々な支援活動を行っています。心理士は、こうした支援活動の一環として被害者へのカウンセリングを担当しています。被害直後の被害者と出会うことは、警察の心理士の大きな特徴だと思います。
被害後間もない時期には、今何に困っていて、どんな支援を必要としているのか、被害者自身も分からないことがあります。目の前の事態や明日からの生活をどうしていこうかと途方に暮れているかもしれません。心理士は、そうした被害者の不安な思いに寄り添いながら、被害後に起こり得る心身の変化や対処の仕方などを助言します。被害者の精神的負担が少しでも軽減されるように、捜査活動や病院受診時の付添い、各種手続きの補助、民間の支援団体への橋渡しなど現実的な支援も行います。
警察職員への支援
犯罪被害者支援に携わっていると、警察職員へのケアはどうしているかと聞かれることがよくあります。警察職員であっても、被害者など命の危険を感じるような体験をした人々と日常的に接することや、事件・事故などの凄惨な現場で活動することから生じる精神的負担は少なくありません。こうした負担は、二次的外傷性ストレスや惨事ストレスと言われ、深刻化すると心の健康状態が悪化し、支援を継続できなくなるだけでなく、仕事を続けること自体が困難になってしまう可能性があります。
犯罪被害者支援を含め、警察業務が適切に行われるためには、警察職員の健康づくりへの支援も欠かせません。警察職員を対象としたセルフケア研修やカウンセリングの実施により、ストレスの緩和を図ることも警察の心理士の仕事です。
警察の心理士として
警察という大きな組織の中で、心理士はほんのわずかしかいません。心理士としての仕事は、上司や同僚など、多くの警察職員の理解と協力によって成り立っています。そして、皆に支えられているという感覚は、私が心理士として困難な状況に直面した時、その状況に向き合い続けることを後押ししてくれています。
私自身も、被害者が犯罪被害に向き合わなければならない時に、警察の支援が支えになると感じてもらえるよう、心理士として力を尽くしたいと思います。