大分大学は大分市と由布市の三つの地区に五学部・五研究科のほか附属学校園、附属病院などを有する総合大学です。臨床心理学コースがある旦野原キャンパスは、大分駅から二十分ほどの丘陵地に広がっており、鳥のさえずりが心地よく響き、まれにタヌキなどの小動物との出会いなどもある、とても自然豊かな場所で、喧騒から離れて勉学に打ち込むには最適な環境です。ゆったりとした環境の中、毎年十名の新入生が臨床心理学の専門性を身に着けるために大学院に入学し、日々研鑽を重ねています。

臨床心理学コースの歩み

 臨床心理学コースは、教育学研究科臨床心理学コースが前身となっており、2000年から臨床心理士の資格取得に向けたカリキュラムをスタートし、日本臨床心理士資格認定協会第二種養成指定を取得しました。2004年には学内実習先となる「心理教育相談室」を創設し、第一種指定を取得しました。その後、公認心理師の養成にも対応すべくカリキュラムを整備し、2020年には新たに福祉健康科学研究科福祉健康科学専攻臨床心理学コースとなりました。福祉健康科学研究科には、健康医科学コース・福祉社会科学コース・臨床心理学コースの三コースがあり、三コース合同で相互の学び合いや多領域を関係づけた学びを進めることができます。臨床心理学コースでは、心の健康や心理学的支援に関する高度な専門性を有し、心理学の視点から「地域共生社会」の構築を牽引することができる心理専門職を養成することを目的としています。また、福祉健康科学研究科の開設に伴い、「心理教育相談室」を「臨床心理教育研究センター」に拡充しました。

大分大学心理教育相談室(2024)

「知」・「技」・「心」の探求

 本コースでは、「臨床心理士」「公認心理師」の受験資格取得要件に対応したカリキュラムを提供しています。このカリキュラムでは、心理専門職として欠かすことのできない「知」・「技」・「心」を探求し、効果的に修得することを重視しています。ここでの「知」・「技」・「心」とは以下の通りです。

 「知」臨床心理学及び関連する領域の諸理論について、その基礎を広く学ぶ。
 「技」アセスメント、面接等の支援、ケースマネジメント等の技法について、その基礎を広く学び、実践可能なものに高める。
 「心」社会人として必要不可欠な態度(他者とのコミュニケーションや信頼関係・協力関係の構築、礼儀作法、常識、責任感、ルールや約束事の遵守、適切な自己コントロール等)はもちろん、公認心理師・臨床心理士としての心構えやまなざし(使命感、倫理意識、クライエントの尊重、感情の共感的理解等)を確実に身につける。

 大学院(修士課程)で、基礎から応用へと一歩ずつ、これらの学びを深めていく履修システムを整備しています。

「心理教育相談室」での学び

 2004年の開設以来、年間2500件程度の相談件数があり、地域に開かれた相談室として、住民の方々のこころの健康に寄与してきました。相談を担当するスタッフとして、臨床心理士・公認心理師資格を有する臨床相談員(臨床心理学コース担当教員)、相談指導員(学内外の有資格者で他学部・他研究科の教員等)、相談専門員(学外の有資格者)を21名擁しています。それぞれの教員・指導者の得意とするアプローチは多様であり、特定の支援技法や理論に限定することなく幅広く対応することが可能なため、対象は子どもから大人まで、心理的な問題から発達の問題まで守備範囲が広いのが特徴です。設備としては、受付兼事務室一室、面接室四室、プレイルーム三室、グループワーク室一室、検査室一室を有しています。地域貢献の場であると同時に、院生の学内実習先でもあることから、院生時代にはおおよそ5~10事例を幅広く担当することができます。院生は担当するケースに関して、セッション毎にスーパーヴィジョンを受けていますが、担当ケースの親担当ではない指導者の指導を受けることも可能となっており、主体的で多様な学びを保証しています。また毎週木曜日には院生やスタッフ全員で新規受付ケース検討や事例検討を行っていることから、多様なアプローチや視点から多面的にケースを理解し、支援していく経験を重ねています。学内実習の質・量ともにかなり高いレベルの心理支援実践に関する教育を院生に提供できていると考えています。

「臨床心理教育研究センター」

 2020年4月、臨床心理教育研究センターを研究科付属のセンターとして設置しました。既存の「心理教育相談室」の機能を拡充し、新たに「五領域(医療・保健、福祉、産業・労働、教育、司法・犯罪)の架橋」と「地域への参画」の視点を加え、地域貢献、大学院教育、研究、地域に向けた発信を一体的に行うことによって、心理支援の高度化と地域支援の活性化のためのプラットフォーム構築プロジェクトを推進するためです。センターでは様々な取り組みを行っていますが、その中の一つとして、修了生や地域の心理専門職の研究活動を推進しています。本コースではセンターの設置以前から、修了生が「心理教育相談室」での支援実践の研究を続ける「特別研究員」という制度を設けていました。院生や特別研究員は、心理教育相談室で担当したケースを基に支援実践の研究を進め、事例論文として論文化し、センターで毎年発行している「大分大学臨床心理研究」に投稿しています。これらの活動に加えて、新たな研究活動を推進するために、「研究推進ユニット・教育高度化ユニット」制度を設けました。このユニットでの研究には、本コースの修了生のみならず、大分県内で臨床心理士および公認心理師として心理支援に携わっている方もメンバーとして加わることができるものとなっています。このようにセンターでは、本コース修了後も研究活動を続けることができる環境を整えています。

心理臨床家養成の絆

 本コースの修了生たちは、県内外を問わず、医療領域(総合病院・療育機関・クリニック・精神科病院等)、教育領域(教育相談センター、教育委員会、スクールカウンセラー等)、福祉領域(児童相談所、乳児院、児童養護施設、児童発達支援センター、児童心理治療施設、市役所子ども家庭支援課等)、司法・犯罪領域(法務技官等)など、様々な現場で活躍しています。修了生たちは、日々、真摯に要支援者と向き合いながら、大分大学臨床心理同窓研究会(修了生の運営による)が開催している講演会や事例検討会にも参加して、研鑽を重ねています。さらには、大分県内で活躍している修了生たちは今、院生の学外実習先の実習指導者として心理臨床家の養成に尽力してくれています。現場で活躍している修了生たちの姿は、院生にとっては身近なモデルでもあり、本コースでの実習にさらなる厚みをもたらしてくれています。

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