当事者に役立つ心理教育 身体の成長とスマホの利用が思春期の眠りに与える影響
著者 広島大学大学院人間社会科学研究科/広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター 田村典久
思春期では就寝時刻が遅くなり、睡眠不足になりやすいことがわかっています。このような睡眠の特徴には思春期特有の発達的変化が関係しています。ここでは、思春期発達に伴う身体や生活習慣の変化と睡眠の関係についてご紹介します。
身体の成長と眠りの変化
思春期の身体の成長と眠りの変化はどのようにつながっているのでしょうか。思春期を迎えたAさんの例を見てみましょう。
Aさんは中学1年生の男子です。9月頃から声変りが始まり、顔や身体の毛が増え始めました。最近では、夜眠くなる時刻が遅くなり、遅い時間帯でないと寝つけない日が多くなってきましたが、起床時刻はこれまで通りのため、毎朝眠くて仕方ありません。学校がない休みの日には、遅くまで寝坊をしてしまいます。
Aさんのように、思春期は身体が急激に成長し、第二次性徴が現れる時期です。この期間、身体の成長に伴い、性ホルモン(男子ではテストステロン、女子ではエストロゲン)の分泌が活発になります。テストステロンは、男子の声変わり、筋肉量や体毛の増加に関わり、エストロゲンは、女子の胸の発育や月経(初経)の開始に関わります。これらの性ホルモンが、睡眠を促進するメラトニンというホルモンの分泌に影響を与え、眠くなる時間や寝つく時間帯が遅くなり、結果的に思春期の子ども達は就寝時刻が遅くなると考えられています。
睡眠リズムの遅れと不規則性に伴う身体と心への影響
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、中高生に対して8〜10時間の睡眠を推奨しています。しかし、Aさんのように、次の日に学校がある日の夜に就寝時刻が遅くなると睡眠時間が短くなり、睡眠不足になってしまうため、休みの日に朝寝坊しやすくなってしまいます。
一見すると、朝寝坊は睡眠不足の解消に役立ちそうですが、実際にはそのような解消効果は期待できないことがわかっています。特に休みの日の起床時刻が平日から2時間以上遅くなってしまうと、体内時計のリズムが乱れ、メラトニンの分泌リズムが遅れたり、月曜日の朝から水曜日の夕方まで強い眠気や疲労感が持続したり、イライラしやすくなったりすることが知られています。
睡眠リズムの遅れを助長する生活習慣
思春期での就寝時刻の遅れには、生活習慣も影響します。特に現代では、スマートフォン(以下、スマホ)の影響が大きくなっています。その中でも、スマホ画面の輝度(明るさ)がメラトニン分泌に与える影響は大きく、既報ではスマホを輝度最大にして4時間使用すると、メラトニンの分泌リズムが90分以上遅れることが確認されています。また、夕方16時以降にスマホを長時間使用すると、24時以降に就寝する生徒や睡眠時間が5時間未満になる生徒の割合が増加します。長時間のスマホ利用は、翌日の授業中に眠気を強め、学業成績にも影響します。このことから、夜間はなるべくスマホの利用を控えることが望ましいと考えます。やむを得ず利用する際には、輝度を調節したり、就寝1時間前にやめたりすることが大切です。
思春期の眠りを促進するために
体内時計のリズムを崩さず、正常に保つためには、学校がある日もない日も毎日同じ時刻に起床し、朝、太陽の光を30分以上しっかり浴び、朝食を摂ることがとても重要です。夕方に居眠りするのもよくありません。就寝時刻が遅れ、睡眠不足になりやすい時期だからこそ、眠りを促す工夫を取り入れてみませんか?