臨床的な「悩み」と言っても様々のものがある。ここでは心理臨床家の当人が自分で解決できない悩みということになるだろう。それにも四つの違ったカテゴリーがある。一つ目は臨床的に解決できない悩み。例えば、今まで臨床家が臨床的にも、また学習の過程でも、自分の成長過程でも体験したことがなく、全く新しい問題に接したような場合がある。これらの問題は解決の糸口を探すのは難しい。二つ目は、全く似た問題に臨床家も自分のことで直面したことがあり、まだその問題が片づいていない場合。三つ目は、婚外の性的な関係、また会社での上司や同僚との葛藤関係の体験の苦しみと言った問題である。四つ目は、現在カウンセラーがクライエントの問題と同じ問題に悩み、葛藤し苦しんでいる問題である。
恐らく、このような疑問に遭遇したら、その主題について書いてある臨床の著書や論文と同時に応答の難しさに、どのように治療的な反応をしたらよいかについて書いてある論文や著書を探して読むだろう。第二には、遠回しに、「・・・・・・」のような問題をもったクライエントに会ったことがあるか、どのように解決したかを教えてもらうことになる。この時、よい先輩、よい仲間をもっているかどうかによって違ってくる。また、もっと公的には、所属グループのケース・カンファレンスに提出して、少し距離をおいて、客観的に検討する。しかし、未解決やまた悩みの渦中であると、カンファレンスの論議の最中に自分の方が混乱して、問題の解決よりも、反対に混乱が大きくなってしまうかもしれない。
周囲に信頼する仲間、先輩がいないとしたらどうするか。これはなかなか難しい。しかし、メールで友人や過去のスーパーヴァイザーの先輩に尋ねるということも大事である。今はメールでもスカイプでも、コンタクトを取る方法は多くなった。外国で訓練を受けた人たちが悩みや問題にぶつかった場合、外国の信頼できるスーパーヴァイザーに連絡する人、また改めてスカイプを通して自分の精神分析(教育分析)を受ける人もある。これも適切な方法だろう。
コンサルテーションという方法もある。日本ではまだ多くはないが、これから増えていくことを期待している。これは内的問題が絡んだケースの場合、困難な手に負えない問題の場合、はじめての問題などに直面する時、その問題の理解と臨床的な取り扱いをスーパーヴィジョン(SV)のように、きっちり時間を決めて取り組むやり方である。臨床家にとって問題が大きく、一人で取り組むには荷が重い場合には、どう対処するか。問題をどのように考えるか。目的や枠組みのはっきりした臨床家への援助がコンサルテーションである。これは特定の問題の短期のSVと言ってもよい。これは「その問題」の理解と解決のためにおこなう短期の援助関係であるところがSVと違うところである。また、SVは訓練生であるときに体験することが多いが、コンサルテーションは訓練を経て、一人前の臨床家として生活している人の臨床的な悩みの解決に利用する専門家との援助関係である。
援助を受けなければ解決しないようなことに臨床家が悩んでいる場合には、臨床家自身の問題の解決に一番適切と思われる方法よって問題に取り組むことが大事である。学会などで、発表したり、司会や講演をしたりしている人で、コンサルテーションを受けたい人がいたら、直接アプローチをして頼めばよい。ここで必要なことは、自分の考えや困っている問題の援助を受けたい理由が「こんなことで困っている」とはっきりしていることである。