東北大学大学院教育学研究科・臨床心理学コースは、家族療法と認知行動療法を中心にし、心理学の基礎的概念を研究・参照し、より実践的な心理臨床の習得を目指している。教員は教授一名、准教授四名、助教二名の七名(二〇二一年四月一日)であり、博士課程前期課程(修士課程)の大学院生は約三〇名(一学年につき毎年一五名前後)である。臨床心理相談室での内部実習のほか、医療・福祉・教育・産業・司法の四領域以上を外部実習先としている。東北大学は研究者養成を重要視した大学院大学であり、博士課程前期課程(修士課程)では課題研究論文・修士論文、博士後期課程(博士課程)では、特定研究論文Ⅰ・特定研究論文Ⅱ・博士論文と、いずれにおいても毎年、研究論文を提出するという特徴を有している。

1.臨床心理相談室での実習とケースカンファレンス

 臨床心理相談室では、インテークは教員が行い、面接は博士課程前期課程(修士課程)の大学院生を中心として行われ、クライエントとの面接終了後には、約六〇分のスーパーヴィジョンが行われている。ケースのスーパーヴィジョンは指導教員とは関係なく、大学院生がそのケースに応じて自発的にスーパーヴァイザーを決める。難しいケースでは、博士後期課程(博士課程)の大学院生や教員とともに面接を実施していく場合もある。また、東北大学の臨床心理学では、伝統的に家族療法のトレーニングがライブ・スーパーヴィジョンによって行われてきており、東日本大震災などもあり、一時、中止していたが、現在、再開した。最低で三ケース、最大では八ケースほどを担当して博士課程前期課程(修士課程)を修了していく。ケースカンファレンスは毎週木曜日に全教員および博士後期課程(博士課程)の大学院生を含めて行われている。

2.外部実習

 東北大学大学院は医学系研究科を有しているので、東北大学病院において外部実習を実施している。精神科、心療内科、リハビリテーション科、てんかん科の四科で、大学院一年時に二回に分けて実習している。大学院二年時には様々な外部実習を経験する。医療領域では、県立精神医療センターや県立がんセンターなど、福祉領域では県子ども総合センター、県児童相談所、市児童相談所、市発達相談センター、市精神保健センター、情緒障害児短期治療施設、児童養護施設など、教育領域では私立高等学校、その他、産業領域、司法領域がそれぞれ複数ある。

3.未来型医療創造卓越大学院大学プログラム

 東北大学では「未来型医療戧造卓越大学院プログラム」が文部科学省平成三〇年度「卓越大学院プログラム」に採択された。本プログラムでは、未来の医療・福祉の理想を求め、優れた人材の育成を目指す。臨床心理学コースでは、その一環として、多職種連携による相談のあり方、市民への心理学的研究の情報の発信の仕方を大学院生が学んでいけるように、市民向けの多職種連携(弁護士、就労支援事業所など)による相談会とセミナーを実施している(若島他、 二〇一九、二〇二〇)。

4.今後の取り組み

 東北大学大学院教育学研究科では、東日本大震災以降、有志の寄付により震災子ども支援室が運営されてきたが、一〇年間という期限があり、二〇二〇年度をもって閉室される。これを引き継ぎ、業務の拡充を計画し、心理支援センターの設置を構想・計画している。このセンターは、災害心理支援室、臨床心理相談室、発達・教育心理相談室(教員へのコンサルテーション)の三相談室から構成され、また、全相談室の後方支援として遠隔支援チームが置かれる(数年前に東北大学教育情報教育部が教育学研究科と融合したことにより、情報の専門家がそのチームに携わる)。このセンターは二〇二一年四月の開始を予定している。臨床心理学コースの大学院生は、心理支援センターで内部実習を行い、三相談室にかかわりながら、その専門的経験を重ねていけるようになることであろう。
文献
若島孔文・上埜高志・加藤道代ほか (二〇一九)「無料相談セミナー活動報告―アンケート集計から」『東北大学大学院教育学研究科臨床心理相談室紀要』17, 167-171.
若島孔文・上埜高志・加藤道代ほか (二〇二〇)「二〇一九年度市民相談・セミナー活動報告―アンケート集計から」『東北大学大学院教育学研究科臨床心理相談室紀要』18, 191-201.

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