現場第一主義

 私の仕事は、主にアスリートを対象に臨床心理学の知見(カウンセリング、サイコセラピーなど)を使って、メンタル能力を向上させるお手伝いになります。日本一/世界一を目指す皆さんとの対話を通じ、感性を磨いて精神を研ぎ澄まし、そして対戦相手や過去の自分との勝負に勝つことを目指しています。その際に大事にしていることの一つが「現場を見る」ことです。アスリートの皆さんが「どんな雰囲気や表情で戦っているのか? 場の環境や空気感はどうか?」などを見ておくことが、その後の心理面接に非常に役立つからです。

観察内容を面接に活かす

 現場に行き、試合を観戦したとします。その時には一瞬の選手の表情や雰囲気を捉えておきます。そして面接中にその場面での話題が出た時、「ひょっとしてこんな感じでしたか?」と刺激の一つとして提示することがあります。もちろんこちらから得意げに「あの時こんな表情をしていましたね」と進んで提示するのは避けます。あくまでもクライエントさんがお話しの主導権を握るべきだからです。一方で面接に慣れてきた方の中には「あの時の私はどう見えていましたか?」と私を外的フィードバックの一つとして利用する場合もあります。その時は「私からはこう見えていましたが、ご本人としてはどうでしたか?」というお話をして、“主観的視点と客観的視点”を突き合わせ、心により深く入るきっかけを作ることもあります。また、こちらはあくまでも心理の専門家であり相手はその道のプロですので、技術的なことをさも分かったかのように伝えることは厳に慎まなければなりません。もしどうしてもそのことに言及する必要がある時は、「素人質問になって恐縮ですが…」という枕詞をつけた上で、質問の形で聞くようにしています。

面接場所をホームグラウンドにする

 面接場所も千差万別です。試合会場(スタジアム、競技場、体育館)や選手寮、遠征先ホテルの会議室等をお借りして行うこともままあります。そして、可能ならば下見もします。事前にイメージしておくことで、私がなるべくホームの雰囲気で面接を行えるようにするためです。もちろん完全に区切られた個室であることが必須です。内密性(守秘性)を守るため、壁の一部が吹き抜けになっていたりするところでは行いません。

コロナ禍以降はオンラインも当たり前に

 コロナ禍の頃は現場に伺うこともできず、現場の空気感がわからないままの面接が続いた時期もありました。ただ、メリットはオンライン面接が普及したことです。例えば海外遠征中の選手の皆さんとは帰国後に対面でしかお会いできなかったのが、今は試合直後のまだ興奮冷めやらぬ状況でもリアルタイムで話ができたり、週一回のペースで面接を継続できたりするようになりました。もちろん対面で会えることがベストですが、即時性というメリットもまた大きいと感じています。

世界中、いつでもどこでも心理面接

 同じ曜日/時間/場所など安定した面接構造を維持することが基本ではあります。一方で世界中を転戦しているアスリートの皆さんに対しては、こちらから出向くことやオンラインを駆使して「世界中、いつでもどこでも心理面接」を可能とするスタイルも有益なのではないかと思いながら、日々仕事をさせていただいております。

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