キャンパスは、学部学生、大学院生、社会人学生、留学生、教職員など多様な背景を持つ人々が交差する複雑な空間です。ここでは新たな価値観に触れ、多様な人間関係を築きながら成長することができます。しかしその一方で、キャンパス・ハラスメントのような対人トラブルが起きやすい環境でもあります。
キャンパス・ハラスメントを防ぎ、自分も相手も大切にできるような人間関係を築くには、ハラスメントの起きる背景や特徴を理解した上で、自分と他者の適切なバウンダリー(境界線)を意識することが大切です。本稿では、特にバウンダリーの重要性と教職員との信頼関係を結ぶコツについて考えていきます。
ハラスメントの起きる背景とその特徴
エピソード1:「過剰な指導」
院生Aさんの指導教員は研究熱心なことで知られており、研究室の学生達には夜間や週末を問わず連絡をしていました。Aさんは、指導教員からの連絡にすぐに返事をしなければ評価に影響すると考え、教員の要望に従い続けましたが、次第に自分の生活が支配されているように感じるようになりました。Aさんは本音を言い出せないまま、ストレスを抱え込む結果となりました。
ハラスメントとは、優位な立場にある人が、その優位性を利用して、他者に心理的・身体的苦痛を与える行為を指します。また、ハラスメントは閉鎖的な場や空間でエスカレートしやすい特徴があると言われています。
大学では教職員が学生の進路や評価に関与する場面もあり、学生は「本音が言えない」と感じる状況に置かれやすくなります。また、研究室やサークル活動といった特定のグループ内では、閉鎖的な人間関係が形成されやすく、外部の目が届きにくいため、問題がエスカレートするリスクも高まります。
エピソード1の例では、閉鎖的な環境と優位性の影響が明らかです。Aさんは研究室という特定の空間で、指導教員の評価という力に縛られ、本音を伝えられない状況に追い込まれました。
バウンダリー(境界線)の重要性
キャンパス・ハラスメントは優位な立場の者がそうでない者に対して配慮し、ハラスメントをしないように自身の言動に注意を払うことがとても重要です。そのことを前提にしつつ、ハラスメントを防ぐためにはどんなことを意識したらよいかを考えてみましょう。
例えば、「自分の意見や感情が無視される」「なんとなく不快だけど断れない」といった経験がある場合、それはバウンダリー(境界線)が侵されている可能性があります。こうしたサインを見逃さないことが、自分を守る第一歩です。
ハラスメントを防ぐためには、他者の言動によって自分のバウンダリーが侵害されていることに気づくことが大切です。
エピソード2:「頼まれすぎて疲れ果てる」
Bさんは、サークル活動で責任感の強さを買われ頼られることが多くなりました。無理なお願いにも応じるようになりました。しかし、負担が増える中で断ることが難しくなり、ストレスを感じるようになりました。最終的にBさんは活動を休みがちになってしまいました。
この例では、「ここまでは受け入れるけど、ここからは嫌だ」と言えることが重要だったと言えます。モヤモヤとした不快な感情を感じたとき、それはバウンダリーアラームが鳴っていて、バウンダリーが侵されているサインです。
またバウンダリーは、心理的な領域だけでなく、身体的、時間的、感情的なものまで含まれます。たとえば、次のような場面では特に注意が必要です。
・夜遅くや休日に、明確な理由がないのに個人的な連絡を受ける
・プライベートな領域に土足で踏み込むような質問をされる
・断ると相手が不機嫌になり、自分を責めるような態度を取られる
こうした場面で感じる違和感を無視せず、「これは不快だ」と自分に正直になることが大切です。また、適切なバウンダリーを設定することで、対人関係の中でのストレスを軽減することができます。
バウンダリーを守ることで自分も相手も尊重する
バウンダリーがあることで、私たちは心理的・身体的な安全を保つことができます。相手のバウンダリーを尊重することは、自分が尊重されることにもつながります。
お互いのバウンダリーを理解し、守ることは、信頼関係を築くための基盤です。バウンダリーアラーム(不快感のサイン)を意識することがより良い関係性を築く第一歩なのです。
教職員と信頼関係を結ぶコツ
教職員は優位な立場にあり、学生は弱い立場だからといって必ずしもハラスメントが生じるわけではありません。教職員と信頼関係を築くにはハラスメントの背景を理解しつつ、以下のポイントを心がけましょう。
①閉鎖的な空間を避ける
一対一の個別指導、評価の場面、密室での活動は、他者の目が届かず、問題が起きても外部に相談しづらい状況を作り出します。一対一ではなく、友人や信頼できる第三者を含める、オープンスペースでのやり取りを心がけることで適度な距離感を保ちやすくなります。
②バウンダリーの侵害に敏感になる
自分はどの程度の関わりを心地よいと感じるかを知り、そのことを相手に伝えることが大切です。例えば、夜間の連絡は控えたいと感じたなら「この時間帯の連絡には応じない」といったルールを設定しましょう。バウンダリーアラームが鳴ったことに気づいたら、まずは違和感に気づいて自分を守ろうとしたことを褒めてください。そして自分の本当の気持ちを相手に率直に伝えることが大切です。しかし、必ずしも毎回本音を伝える必要はありません。例えば、「今日は予定があって」と言って断るなど、自分を守るためのちょっとした嘘も時には大切です。また、場合によってはその場を離れたほうが良いこともあるでしょう。その場を離れることに罪の意識を感じる方もいますが、バウンダリーアラームが爆音で鳴っている場合は、相手から逃げるのも方法のひとつです。その場を離れることは、自分を守るための有効な手段であり、罪の意識を感じる必要はありません。
③誰かに話してみる
教職員との信頼関係が崩れかかっているとき、立場の弱い学生は、自分の感じていることがおかしいのではないか、相手の方が正しいのではないかと思い込んでしまうことがよく起こります。信頼できる誰かに状況を話してみると客観的に整理できるでしょう。キャンパス内の相談窓口で相談するのも良いと思います。
自分も相手も大切にするために、バウンダリーを尊重しつつ、教職員と健全な信頼関係を築いていきましょう。