プロファイリングとは?

 皆さんはプロファイリングという言葉をご存じでしょうか? この言葉はマスコミにより紹介された経緯があります。まず、一九九一年に公開され、ジョディ・フォスターが連続猟奇殺人事件に取り組むFBI訓練生を演じた『羊たちの沈黙』という映画は、アカデミー賞五部門を受賞しました。その後、『FBI心理分析官』(一九九四、早川書房)などの本が次々に出版され、わが国でも、プロファイリングをテーマにしたテレビドラマも制作されて、一時期、非常にポピュラーな言葉になりました。
 プロファイリングという言葉の意味については、日本の科学警察研究所では「犯罪現場から得られた資料及び被害者に関する情報等から、犯人の性別、年齢層、生活スタイル、心理学的特徴、犯罪前歴の有無、居住地域等、犯罪捜査に役に立つ情報を推定すること」と定義されています(渡邉・池上・小林、二〇〇六)。
 昔から犯罪捜査は、捜査員(刑事)が犯罪現場を臨場する、事件関係者から聞き込みを行うなど、様々な捜査の結果から得られた情報から捜査幹部が捜査方針を決定していきます。プロファイリングは、平たく表現すると、その過程に心理学的な分析結果を活用する捜査手法であり、心理学の応用分野を犯罪捜査にまで拡充していくという意味でも、筆者(その当時、徳島県警察の科学捜査研究所の心理係)は非常に意義深いと思っています。

プロファイリングの手法について

 プロファイリングの手法に関して、日本でプロファイリングを中心的に導入した科学警察研究所の田村(二〇〇〇)は、当時、臨床的プロファイリング、統計的プロファイリングの二つの手法をあげています。その後、犯罪者の地理的な行動に焦点をあてる地理的プロファイリングの手法が加えられていきます。
 臨床的プロファイリングとは、精神医学者や臨床心理学者が、犯人の言動や行動を材料に、その臨床的知識をもとに犯行動機を重視して犯人像を推定する手法とされています。先に紹介したFBIの手法が一般にその傾向が強いとされています。
 一方、統計的プロファイリングは、過去に発生した同種事件の様々な情報を基本として、その統計的分析から犯罪行動パターンを抽出し、当該の犯罪行動と類似パターンを持つ犯人群の特徴から犯人像を推定する手法とされています。その当時、英国のリバプール大学で捜査心理学センターを開設した環境心理学者ディビット・カンター教授らの研究グループによって開発された手法が、その代表といえましょう。
 最後の地理的プロファイリングは、連続事件の発生場所をもとに犯人の居住地(職場・学校)など連続犯行の拠点を推定する、さらには次なる事件の発生場所を予測する手法です。事件の発生状況によっては、具体的に重点警戒すべき地域をかなり絞り込むことも可能な場合もあり、特に捜査的な有効性が高い手法であるといえるでしょう。

日本のプロファイリング

 わが国の警察がプロファイリングを研究するきっかけとなった事件は、一九八八年から翌年かけて発生した首都圏における連続幼女誘拐殺人事件です。この種の事件の発生は日本では非常に稀であったので、今後の対策として一九九四年頃から先に紹介した田村先生が中心となり研究への取り組みが行われました。
 まず、翌一九九五年に田村先生らの科学警察研究所の心理職と、全国科学捜査研究所の心理研究員の有志による十数名のプロファイリング研究会が結成されました。当時はプロファイリングといえば、やはりFBIという風潮があり、この研究会ではFBIの文献などを用いて、地道な勉強会が開催されていました。その後、リバプール大学のカンター教授を招聘して研究会を開いたことがきっかけで相互交流がはじまり、今までに非常にたくさんの研究が行われています。
 ところで、最近のわが国の治安は良好であるということを、耳にされる方も多いかもしれませんが、プロファイリング研究会が活動を開始した一九九五年頃から徐々に治安が悪化、つまり犯罪の認知件数が増加していました。中でも一九九七年に発生した神戸連続児童殺傷事件は、また社会を震撼させました。そのような時代的な背景もあり、プロファイリングには大きな期待が注がれるようになってきました。
 日本の警察組織は警察庁を中心としたトップダウン形式の構成をしており、都道府県警察の規模に関係なく、同じような組織構成で横並び状態で構成されています。犯罪に関して収集された情報は、捜査のために全国的に統一された様式で記載されています。そのため、わが国のプロファイリングは、警察における犯罪に関する資料を活用した統計的プロファイリングを基礎において、臨床的プロファイリングを併用する形で分析を行っています。また、ある程度の犯行件数がある連続事件には、地理的プロファイリングを併用して取り組み、捜査員を効率的に配置しています。たまに発生する快楽的殺人や加虐性の高い性犯罪にも同様の手法を応用する形で対応しています。
 プロファイリングの分析者は、都道府県警察による違いはあるのですが、主に科学捜査研究所に所属する心理職、あるいは警察本部の刑事部門に属する捜査員や情報分析担当者が対応しています。実際の捜査にプロファイリングが導入された当時、北海道警察は、わが国で初めて心理職と捜査員が組んで分析を行う専門チームをつくり、心理学的知見と現場警察官の捜査経験を融合させて、非常に多くの犯罪捜査に貢献をしています。

おわりに

 司法・犯罪領域における警察を中心とした心理学の応用分野には、ポリグラフ検査、犯罪被害者支援、少年サポート業務、虚偽自白などを防止する科学的取調ベ手法(捜査面接)などがあげられます。これらの分野において特に心理臨床と関係が深いのは、まず、犯罪被害者支援、さらに少年サポート業務であり、実際に臨床心理士・公認心理師もこれらの業務を担当しています。
 私自身、プロファイリングを含め警察の心理職を希望する学生から相談を受けることは多いのですが、心理臨床の他領域に比べると求人数が圧倒的に少ないため、学生の希望を簡単にはかなえてあげられないことに、もどかしさを感じるのが現状です。

文献

Ressler, R. K., & Shachtman, T. (1992).Whoever fights monsters. New York: St.Martin’s Press. 相原真理子(訳)(一九九四)『FBI心理分析官』早川書房
田村雅幸(二〇〇〇)「解説(あとがきにかえて)」 Jackson, J. L., & Bekerian, D. A. (Eds.)(1997). Offender profiling: Theory, researchand practice. New York: John Wiley & Sons.田村雅幸(監訳)︑辻典明・岩見広一(訳編)『犯罪者プロファイリング』(二二二~二三四頁)北大路書房
渡邉和美・池上聖次郎・小林敦(二〇〇六)「犯罪者プロファイリング総説」渡邉和美・高村茂・桐生正幸(編)『犯罪者プロファイリング入門』(一~一六頁)北大路書房

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