「記録することの大切さ」学会設立四〇周年を迎えるにあたって
この原稿は、新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が出されている中で書いています。新型コロナウィルス感染に関する問題に対して、本学会がどの様な対応を取ったか記録を残すことは将来の学会活動のためにも重要です。感染者の治療は医療が中心となりますが、それと同時に心理的支援も非常に大切です。
例えば、「感染者、医療従事者とその家族などの不安や精神的ストレス」「感染者への偏見、差別、イジメ問題など」「長期間の休校による児童生徒への影響」「外出自粛や休業要請による精神的ストレス」等への心理的支援が求められています。
東日本大震災の時も、被災者をはじめ、救援者の精神的ストレスや放射能汚染に関する差別やイジメが起こりました。そして、震災後一〇年経った現在も、PTSDの症状で苦しんでいる方がいます。今回の新型コロナウィルスも緊急事態宣言が解除され通常の日常生活に戻ったとしても、心理的な問題はかなり長期間継続することが予想されます。本学会では災害支援検討委員会で、三一回(二〇一二年)から三八回大会で発表された災害支援に関する論文一四一件を分類し記録として残すことになりました。今回の新型コロナウィルスに関する学会の活動と研究報告についても、正確な記録を残したいと考えています。
四〇年の歩み
一九八二年三月二二日 日本心理臨床学会として発足
「心理臨床科学の進歩と、会員の資質向上、身分の安定をはかることを目的とする」
同年第一回大会開催:会員数一二七七名(大会参加者数七五七名)
第一〇会大会:会員数四四八七名(大会参加者数二五六二名)
第二〇会大会:会員数一万七九一名(大会参加者数六〇九八名)
第三〇会大会:会員数二万四二三六名(大会参加者数五八六六名)
昨年第三八回大会:会員数二万九六〇六名(大会参加者数七四七九名)
右図のように第二五回大会頃までは、会員の約半数が参加していました。第三〇回大会は東日本大震災、第三五回大会は熊本・大分の地震災害等のため、参加者が大幅に減少しました。昨年の第三八回大会は第一回公認心理師試験のため急遽開催日程が六月に変更となったことなどで参加者が減少しました。
現在、会員数は二〇二〇年三月末で二万九七〇五名となっています。
今年の第三九回大会は八月に開催を予定していましたが、新型コロナウィルスの影響によりWEBによる開催となりました。初めてのWEB大会に向けて、開催方法等について現在検討を始めているところです。
二〇〇八年から本広報誌﹃心理臨床の広場﹄を年二冊発行することになりました。
二〇〇九(平成二一)年四月一日 一般社団法人となる(定款 目的 第三条の一部)「心理臨床学に関する研究、調査及び普及啓発等の各種事業を行い、心理臨床学の健全な発展と国民の心の健康増進に寄与することを目的とする」
この一〇年間の主な社会状況と事業活動
◦二〇一一年:東日本大震災心理支援センター開設(日本臨床心理士会、日本臨床心理士認定協会と合同)、「心理臨床学事典」発行
◦二〇一三年:「心理臨床学研究」大学図書館の開架化、学会誌掲載論文のアブストラクトのホームページ掲載
◦二〇一四年:英語論文雑誌「Online Journal of Japanese ClinicalPsychology」発行
◦二〇一五年:国家資格「公認心理師法」成立
◦二〇一六年:熊本・大分を震源とした災害支援、大会論文集の電子データ化
◦二〇一七年:若手の会発足、九州北部豪雨災害支援
◦二〇一八年:災害発生時初期資金援助制度戧設
◦二〇一九年:「公認心理師」の誕生
◦二〇二〇年:新型コロナウィルスにより第三九回は急遽WEB大会として開催
四〇周年記念事業検討専門部会設置目的
今後の本学会活動を検討するために本委員会を設置し、以下のような事業計画を企画し準備を進めています。
【記念事業の計画について】
◦四〇周年記念誌の発行:三〇周年
記念後の一〇年間の活動記録
インタビュー集「先人に訊ねる日本の心理臨床学史」、会員動向調査
◦第四〇回大会では講演に替わる「心理面接のデモンストレーション」を企画
◦記念式典、記念祝賀会の開催
五〇周年に向けての課題
古事記の序文に「稽けい古こ 照しょう今こん」という一文があります。「古いにしえを稽かんがえ今に照らす」という意味です。「稽古」の稽えるとは、対象を観察するだけでなく積極的に交わって、比べ、調べて身につけていくことです。今回の新型コロナウィルスにより、学会活動や運営のあり方についても新たな試みが求められています。学会活動:学術大会や講演会、シンポジウムについてもWEB開催や録画の公開についての検討が必要です。会議のあり方についても、WEBによる開催を検討することが必要です。学術団体として、研究成果の情報発信と共に、心理臨床の実践活動にどの様な貢献が出来るのかについても再検討が必要です。
また、新型コロナウィルスの問題をはじめ、海外との連携なくしては解決が困難な問題が多くなってきている状況においては、心理臨床研究に関しても国際交流の必要性が高まっています。本学会においてもさらなる国際交流の輪を広げていくことが大切だと思われます。