広島大学大学院は、二〇二〇年度に全学改組し、これまでの教育学研究科 心理学専攻 心理臨床学コースは、人間社会科学研究科 人文社会科学専攻 心理学プログラム 臨床心理学実践・研究コースとして新しくスタートしました。公認心理師と臨床心理士の二つの資格を取得できるカリキュラムを設定し、これまで五〇年の心理臨床家養成の歴史と実績を基盤として、実践力と研究力の双方を身につけた心理臨床家の養成をめざしています。
心理臨床家養成の長い歴史と臨床教育の特徴
広島大学の心理臨床家養成は、わが国の心理臨床家養成の歴史と歩を一にした五〇年の長い伝統を持っています。一九七一年、教育学部心理学講座に鑪幹八郎先生(現在、広島大学名誉教授)が着任され、広島に心理臨床の芽が生まれました。その後まもなく教育学部に心理教育相談室が開設され、心理臨床家をめざす大学院生の訓練と社会貢献をめざして、地域に開かれた心理臨床活動が始まりました。当時はまだ、「臨床心理士」資格もない時代でしたが、広島大学心理教育相談室は、わが国の心理臨床家養成の先駆的な機関の一つでした。臨床実践を重視し、一つ一つの事例を深く理解する研鑽の伝統はその後も受け継がれ、今日まで数多くの有能な臨床心理士を輩出してきました。
二〇〇一年度に(財)日本臨床心理士資格認定協会から第Ⅰ種指定校の認定を受け、翌年には研究科附属心理臨床教育研究センターが設置され、臨床心理士養成の教育体制が整備されました。また、力動的心理療法を中心としながらも、認知行動療法や来談者中心療法も学べるように、臨床心理学の教員の専門領域を拡大してきました。毎年一五名程度の公認心理師・臨床心理士をめざす大学院生が入学しています。
広島大学の公認心理師養成カリキュラムの特徴
二〇一五年九月の国家資格 公認心理師法の成立に伴い、広島大学はカリキュラムを大幅に見直し、二〇一八年度より臨床心理士養成とともに公認心理師養成を開始しました。 その特徴の一つは、①これまで五〇年間の心理臨床家養成経験の蓄積を生かした心理臨床実践力のあるスペシャリストと、②実践力のある研究者/研究力ある実践家の道のいずれも選択できることです。(詳しくは広島大学心理学教室のHPをご覧ください。https://home.hiroshima-u.ac.jp/psych/index.html)
大学院「心理実践実習」は、これまでの学外臨床実習先であった病院、児童養護施設、教育センター相談室などの協力を得て、医療、福祉、教育分野を中心に行っています。また、教育臨床の分野として新たに、広島市内の高等学校と連携して高校生を対象とした集団認知行動療法のプログラムを開発し、実践しています。
地域の心理臨床家とともに行う心理臨床家養成
広島大学の心理臨床家養成の大な力になっているのは、学外スーパーヴァイザー制度です。これまでの長い心理臨床教育の中で育まれた多くの修了生が地域の大学や臨床施設で活躍しており、そのベテラン・中堅の心理臨床家が、スーパーヴァイザーや学外の心理実践実習における臨床実習指導者として母教室の臨床教育を支えています。
公認心理師・臨床心理士をめざす大学院生は、全員が心理臨床教育研究センターの相談員となり、博士課程前期(M)一年生の前期からケースカンファレンスおよび事例検討会に参加します。一年生の後期から事例を担当し始めます。それに先立ち、全員が学外スーパーヴァイザーについて、試行カウンセリングの段階から個別のスーパーヴィジョンを受けます。以後、博士課程後期(D)を含めて、大学院修了まで担当する事例の個別スーパーヴィジョンを受けることが義務付けられています。後進の臨床教育に協力を惜しまない学外スーパーヴァイザーの数が多いことも本学のありがたい特徴の一つです。
博士の学位を持った心理臨床家(Scientist-Practitioner)の養成
広島大学の心理臨床家養成におけるもう一つの特徴は、博士の学位をもった臨床心理士(これからはそれに加えて公認心理師)の養成をめざしていることです。博士課程前期修了後、臨床心理士・公認心理師の資格を取得するだけでなく、博士課程後期に進学して博士(心理学)の学位を取得し、大学での次世代の専門家養成に携わったり、現場で指導的心理臨床家になるというキャリア・ヴィジョンを教員と院生が共有し良い成果をあげています。