大学の概要
本学心理学科は、二〇〇一年「こころの時代に貢献できる実践家養成」をキーワードとして戧設されました。本学の前身である静修女子短期大学(一九六九年戧設)・静修女子大学(一九九三年)時代から「社会に貢献できる実務家養成」が教員の根幹に置かれてきました。その伝統を心理臨床の領域でも実践していこうとする大学の教育理念と社会の要請の中で、本学の心理臨床家養成は脈々と地道に行われてきたと言えます。
現在、心理学科は「臨床心理専攻」と保育者・幼児教育者を目指す「子ども心理専攻」の二専攻から成り(二〇〇八年~)、一種指定大学院として臨床心理士養成教育を行ってきた大学院心理学研究科は、新たに公認心理師養成も並行して行うことになりました。六个年一貫した流れで心理臨床家を養成する道がより確実になったように思います。
両資格が共に受験可能であることの魅力はありますが、一方で過密なカリキュラムなど課題も多いと感じます。教育カリキュラムの整備や運用を巡る模索や工夫は始まったばかりなのに二〇二〇年度を迎えた途端のコロナ問題。学外・学内両実習もままならない状況でどうなるのやら・・・・・・。ともあれ、本学における心理臨床家養成の一端をお示しします。
大学院生の学内実習機関として、また、学部生に対しても広く体験的教育活動のフィールド提供施設として機能すべく努める本学心理相談研究所の活動について触れていきます。
心理相談研究所―面接室での体験と地域援助体験を並行する実習教育
私は、本研究所所長であった十数年間、臨床心理士志望の大学院生に生の臨床感覚を本施設でどう積んでもらうか、さらに、心理学科の特質を活かした活動を地域に向けてどう発信し根付かせていくかと考えながら、以下に述べるような諸事業を展開してきました。
《面接室での体験―大学院における実習システム》
M1の春学期開講の基礎実習や講義・演習の授業を通して、ケースに出会う前の基本となる職業倫理など対人援助に携わることの意味を学びます。その上で、事務室での電話受付実習を経て陪席実習へと、さらに、M1秋学期に実施される心理学研究科教員によるケース担当審査を合格後、以下の①、②のケースを担当、各々に応じた実習を受けます。
①心理検査実習:見立ての一環としての教員もしくは相談員によるアセスメント面接への陪席、指導教員の下での心理検査の施行およびデータ処理、被検者や保護者、連携先の機関などそれぞれに応じた報告書執筆、教員もしくは相談員によるフィードバック面接への陪席、さらにそれらの過程を学内授業で振り返るまでを含みます。
②心理面接実習:プレイセラピーと言語面接両方を体験できるよう担当ケースを組んでいます。各セッションのスーパーヴィジョンを重ねて、研究科教員や外部招聘の助言者を交えた事例検討会への発表や討論を経てケース理解を深めます。年度末には、本研究所発行の所報掲載に向けて体験した一ケースを事例研究論文としてまとめます。修士論文と事例研究論文を並行させながら執筆する作業は、非常に労が多いのですが、事例として振り返り文章化することで、新たな気づきを得たり、心理臨床家としての自分の特性や課題を見つめることができるなど、欠かせないプロセスと思います。
《地域援助体験》
以下の三つの活動は、いずれもほぼ一〇年もしくはそれ以上にわたり継続されています。
①子育て支援活動は「子ども心理専攻」が開設されたことを機に、主に子ども心理専攻教員の手で始められ、毎回地域の親子が五〇名ほど参加し年八回行われます。現在は、学生の種々の授業にも組み込まれていて、学生のサークルと教員の協力により諸プログラムを企画・運営しています。
②地域支援に携わる多職種八〇名前後が年一回会する「合同セミナー」では、心理職だけでの事例検討会とは一味違う、他職種(多くは保育職)が現場で抱える困難事例の提示を通して、多角的な視点から討論されます。
大学院生は、①②に実習授業という形で参加、地域の方々や多職種との交流を体験しながらコミュニティ感覚を養います。また、合同セミナーで助言者としてお願いしてきた青木紀久代先生などから、他職種へ心理学の概念を平易に伝えることの大事さを、学生ともども私たち教員も学ばせて頂いています。
③朗読会は、文学作品の朗読とピアノ演奏の共演という年一回のエンターテイメント的行事ですが、そこに心理学的テーマの解説を盛り込むことで、地域に向けたメンタルヘルス向上の心理教育的役割の一助にもなっていると自負しています。
こころの内面にも、地域に生きる生活者へも想いを馳せられる心理臨床家が育ってほしいと願っています。