こころの専門家としての繫がり、なかでも同業者、同領域の仲間との繫がりということで、本稿では、私の学生相談領域での繫がりについてお話したいと思います。
学生相談のカウンセラーはあたたかい
私は常勤の学生相談カウンセラーとなって二四年が経とうとしています。九州大学大学院博士後期課程を単位満了退学後、研究生を経て九州大学健康科学センターに入職し、それ以来学生相談領域一筋で働いて来ました。
私が入職したての頃は、上司として峰松修先生(九州大学名誉教授)がおられました。先生には一緒に仕 事をさせていただく中で多くの実践の知恵について教えていただきました。三〇歳台で学生相談領域で働き始めた私は、その峰松先生のススメで、全国の学生相談の研修会や団体などの学生相談カウンセラーの集まりやコミュニティに参加することになりました。
当時の学生相談のコミュニティは、全国的な広がりをもっているのにもかかわらず、お互いの顔が見えるような規模で、毎年開かれる研修会などを通して顔なじみが増え、お互いの置かれた状況や日々の実践の苦労や不安なども気さくに話すことができるようになったりと、とてもあたたかな雰囲気をもつ集まりでした。なりたての学生相談カウンセラーであるにもかかわらず、学生相談界の高名な諸先輩方から気さくにたくさん声をかけてもらったり、気にかけていただいたり、仕事をいただいたりして、そのいただいた仕事を一生懸命こなすことで仲間に入れていただいたりと、「ここにいてもいいんだ」という所属感をもてた経験であったように思います。
プロジェクトを通じて本音を語りあうことができた繋がり
その後、三〇歳台後半は学生相談の出版などのプロジェクトなどに入れていただいたり、シンポジウムなどのスピーカーのお話をいただいたりするようになりました。私にとって大きな繫がり体験の一つは、アメリカでの一年間の在外研究から帰国して、平成一七年の(独)学生支援機構の「大学における学生相談体制の整備に資する調査研究」事業において報告書「大学における学生相談体制の充実方策について」をまとめる委員に入れていただいたことでした。福岡から東京に月に何度も出張し、会議後や打ち合わせの際にホテルの一室で、まるで合宿のように、「わが国の学生相談の充実」について、学生相談経験が豊富な先生方と 脳をフル回転させつつ「ああでもない、こうでもない」と話しながら、一つひとつの言葉を紡ぎ出す経験は、とても大きな刺激となりました。
もう一つは研究プロジェクトによる繫がりがあります。私は、これまでいくつかの学生相談に関する科学研究費の研究代表者・研究分担者になりましたが、これまでの学生相談の繫がりでできた先生方と近い関係の中で一緒に研究をさせていただいたことはとても楽しく充実感を得る経験となりました。「学生相談の発展」を研究テーマとし、学生相談の充実イメージ表という新しい評価表を開発したり、Web-baseの評価表を開発したりしたのですが、一定の限られた期間の中で一つのテーマを追いかけつつ、打ち合わせを重ねていく作業は、この分野に何かインパクトを残すぞ、といった一体感が起こって、刺激的な体験でした。
また海外の学会などにも一緒に参加したりもしました。研究や学会でお会いした時には、日頃の学生相談実践の話になったり、それぞれの学生相談への思いや、なぜ自分がここでこの仕事をしているのか、という個人的な話にもなり、ずいぶん話し込みました。その結果、本音が語れる安心した関係となり、仕事やプライベート、思いつきや考えを忌憚なく語ることができるようになっていき、私にとってはとても大切な繫がりとなっています。
本音を熱く語り合う青年期的なところが良さなのかも
このような関係は、業界のネットワーク、仕事上のお付き合い、という言葉はピッタリしません。では一方で、友人なのか、というとその言葉も何かしっくりきません。
実は、学生相談カウンセラーは経歴や背景、価値観がユニークで多様なので、みんなで同じような発想で同じようなことを考えているわけではなく、それぞれの考え方や目指す方向について葛藤が起こることもままあります。しかし、このような葛藤について本音で熱く語り合えることをよしとする価値観を学生相談カウンセラーは共有しているのではないかと思います。
私は、このような本音を語り合え気持ちをわかちあえるような繫がりになっているのは、学生相談が「高等教育の一環」であり、我々が青年期に寄り添う学生相談カウンセラーだからこそではないかと思います。そもそも学生相談のフィールドは、学生のアイデンティティができてゆく時のゆらぎや、崩壊と再生に直接寄り添うことが多く、カウンセラーとしての経験が長くなって中年期になってもどこか自分の中に青年期の香りを残しているところがあるように思います。華やかでなく、泥臭く、うまくいかない状況の中でもがきつつ、生活や感情体験を丁寧に聴いて共有していこうとする態度が我々のアイデンティティなので、カウンセラー同士の繫がりにもその雰囲気があらわれていると感じます。
心をフレッシュに保つために
学生相談は少人数で配置されている職場が多く、一人職場もかなり多い状況です。同業種で心がゆるせる誰かと繫がれることは、自分を保ち、切磋琢磨し成長してゆくのに不可欠だと思います。本稿を読んでいらっしゃる「学生相談」領域で働いているみなさん、「学生相談」に関心があるみなさんとも新しく繫がれるといいなと思います。これから初老期を迎える私ですが、このような少し青年期の香りが残った繫がりをまだまだこれからも持ち続けられるといいなあ、と願っています。