社会的養護とは

 保護者がいない子どもや、養育に大きな困難を抱える家庭の子どもを公的責任で社会的に養護、保護し、その家庭への支援を行います。そして、代替養育を担うのが里親、ファミリーホーム、施設の三つの形態です。施設養護の一つである児童養護施設(以下、施設)では、幼児から一八歳くらいまで(一八歳以降も措置延長は可能)の子どもが生活をしています。
 社会的養護のもとで暮らす子どもたちは、それぞれ家庭の事情(家庭内の不和、家族の病気や死、虐待など)を抱えており、子ども自身に愛着や発達などの特徴がある場合もあります。子どもは自分の思いを、言葉や行動などで表現し、社会面、学習面、性格面などに様々な影響を及ぼすことになります。

「大丈夫」

 Aさんは、施設に入所した頃から「大丈夫」とよく言い、自分の思いを話すことはほとんどありませんでした。特に、怒りや悲しみなどのネガティブな気持ちを表現することはありませんでした。家庭のことを話す際も、Aさんは笑いながら「ちょっと変わってるんですよね」と話します。そして、一日三食の食事や学校に持っていくお弁当が施設で準備されることに、Aさんは驚いていました。そのような状況では、自分の思いを表現する機会もなかったでしょうし、「大丈夫」と自分に言い聞かせながら生活する必要があったのかもしれません。その後、施設での暮らしを続ける中で、少しずつつらい思いを話せるようになりました。無理をして他の人に合わせたり、頑張り過ぎるところもありますが、ときに毒舌のような発言もできるようになりました。

腹を立てた原因は褒められたこと

 何事にも真面目に取り組むBくん。職員から褒められると、Bくんは「なんで、そんなこと言うんですか。」と本気で、少し腹を立てます。なぜ、Bくんが腹を立てるのか、周囲は困惑しました。Bくんとしては、褒められると自分だけ特別扱いをされているようで居心地が悪く、そんな自分に何か悪いことをしてくる人がいるかもしれないと話しました。Bくんは、褒められる経験が少なく、なかなか自分を肯定できないようでした。思いは急には変えることは難しいので、まずは、一人で抱えずに施設内面接で話すようにしました。褒められてパニックになり落ち込むことがある度に、対処法などを一緒に考えました。その後、他の職員にも話ができるようになり、少しずつ落ち着きました。人によって物事のとらえ方は様々であることを改めて感じましたし、一人で苦しい思いを抱え込まず表現をしていくことも大切なのだと思います。

なんでも、キモい

 Cさんは、自分の思い通りにできないと、「キモ(気持ち悪い)」などと言い、怒りを大いに表現します。落ち着くと、自分の思いを話せますが、感情が高ぶると調整が難しいようです。攻撃的な言動で表現をしがちな子どもには、職員が「悔しかったのかな」「悲しいよね」などの気持ちを含めた言葉に変えて表現してみます。その際、子どもが、言葉を選ぶ必要はあるけれど、ネガティブな気持ちをもち、表現すること自体は悪いことではないことも知ることができます。そうすることで、自分なりに思いを表現できる場合もあります。

「僕がいけない」

 家族から、悲しくなるような言葉を投げかけられることもあったDくん。児童相談所に一時保護されるまでは「家族は間違っていない。僕がいけないんだ」と思っていたそうです。施設入所後も、家族のことを急に思い出しては、非常に落ち込むことを繰り返しました。家族の不満を言えるようになっても、そんな自分に対して「自分が嫌だと思っている家族と一緒のことをしている」と自己嫌悪になりました。そのため、家族間でも人を傷つける攻撃的な言動はいけないこと、助けを求めることは大切なことであると勉強しました。そうすることで、Dくんが自分を責める気持ちは少しずつ変化していきました。
 このように、暴言暴力はいけないこと、助けを求めるスキルなど知識を得る機会をつくることで、子どもは新たな思いを抱き、それを言葉で表現できることもあります。

家族への思い

 代替養育の中で暮らす子どもは、家族と離れて暮らすことになります。「家に帰りたい」思いをもつ子ども、家庭状況を理解して施設の生活を受け入れる子ども、家族や施設に対して拒否感のある子どももいます。また、気持ちは一つではなく、複数の気持ちが重なることもあります。
 「家が楽しい。帰りたい」と嬉しそうに話したかと思えば、「ご飯がないときもあるから、家に帰りたくない」と話すときもあります。どちらも、そのときに子どもが思ったことを話してくれたのだと思います。子どもの場合、特に、時間や場所、話す相手などによっても、思うことや言葉などで表現することが異なることもあります。

思いを表現できない、表現しないということ

 「私の気持ちは、分からないでしょ」「話しても意味がない」と思いをぶつけることもあります。そのような言葉や行動に向き合うときは、その子どもが今まで、どれだけつらい思いをしたのか思いを巡らせつつ、話すことで気持ちを整理したり、困りごとを一緒に考えたり、視点を変えて考えることもできることなどを説明してみることもあります。また、子どもによっては、相手の反応や環境に敏感に反応し、自分の思いを言えないこともあり、生活の場である施設では話ができない場合もあります。そのため、必要に応じて、児童相談所や学校、病院などと連携して、可能な限り、思いを表現できるようにします。ただ、子どもの中には、思いをくみ取れないままに施設を退所する場合もあります。退所後に関しては、アフターケアとして支援を続けることもあります。

最後に

 子どもたちが自分の思いを、日々、言葉や行動で表現したり、表現しなかったりすることを、私なりの言葉で表現してみました。子どもたちの一側面でしかありませんが、今を、一日一日を、いろんな思いをもって過ごしていることを少しでも感じていただければ幸いです。これからも子どもの日々の生活に寄り添っていきたいと思います。なお、子どもたちについては、個人が特定できない程度に内容を変更しています。

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