「対象喪失」というとちょっと響きが固いかもしれません。「大切なものを失う」という意味です。生きていると、ごく稀なものからありふれたものまで、たくさんの対象喪失を経験します。
 当然のことですが、対象喪失はつらいものです。もっとも典型的な対象喪失は死別ですが、とてもつらいことであるからこそ、葬儀という儀式があります。その後も一周忌、三回忌、七回忌・・・と儀式を重ねることになっているのは、人が喪失をこなしていくための知恵なのでしょう。

 しかし昨今、葬儀に限ったことではないですが、「儀式」は「意味がない」「形式的なものに過ぎない」といった理由で敬遠されたり、行われなかったりすることが多いようです。それは私たち人間が強くなったわけではなく、「いつまでも引きずっていても仕方がない」といった「ポジティブ」な価値観がよいものだとされるようになったからでしょう。ほんとうは引きずっていても、それを人前で表に出すことは歓迎されない世の中になってしまったのかもしれません。
 価値観が変わったところで、私たちが痛みを感じないスーパーマンになったわけではありません。私たちがどれだけ進歩しても、「大切なものを失う」のは悲しいことですし、痛いことです。
 本特集は、哀しみのさなかにいる方にはそれが当然であることを思い出す、そうでない方には喪失の痛みへ思いを馳せる、きっかけとなることと思います。

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